イラストやデザインの価格が適切か迷ったとき、「1件いくら」だけを見ても判断しにくいものです。
同じ1万円でも2時間で終わる仕事と10時間かかる仕事では、負担がまったく違います。
制作料金を見直すなら、受取額を作業時間で割った「1時間あたりの売上」を一度出してみると、安すぎる案件や負担の大きい仕事が見つけやすくなります。
制作時間だけでなく「受注から納品まで」を時間に入れる
1時間あたりの売上を出すとき、PhotoshopやCLIP STUDIO PAINTを開いている時間だけを数えると、数字が高く出すぎます。
有償制作では、完成データを作る以外にも時間を使います。
- 問い合わせへの返信
- ヒアリング
- 資料確認
- 構成やラフの検討
- 制作
- 修正
- 書き出し
- 納品データの整理
- 納品連絡
- 請求や売上管理
たとえば「制作は3時間だった」としても、やり取りに1時間、修正に1時間、納品準備に30分かかっていれば、仕事に使った時間は5時間30分です。
料金が11,000円なら、11,000円 ÷ 5.5時間 = 1時間あたり2,000円 になります。
一方、制作3時間だけで計算すると約3,667円です。
どちらを基準にするかで、同じ案件への評価が大きく変わります。
SKIMA公式もクリエイター向けの価格設定例として、「時給×制作時間」から料金を考える考え方を案内しています。
ただし、Creator Deskでは純粋な制作時間だけでなく、その仕事を受けたことで拘束された総時間まで含めて記録することをおすすめします。
まず「販売価格÷時間」を計算してみる
計算自体はシンプルです。
販売価格 ÷ その仕事に使った総時間 = 1時間あたりの売上
たとえば5,000円の依頼なら、かかった時間によって次のように変わります。
| 総作業時間 | 料金 | 1時間あたりの売上 |
|---|---|---|
| 1時間 | 5,000円 | 5,000円 |
| 2時間 | 5,000円 | 2,500円 |
| 3時間 | 5,000円 | 約1,667円 |
| 5時間 | 5,000円 | 1,000円 |
| 8時間 | 5,000円 | 625円 |
「5,000円のイラスト」という価格だけでは、高いか安いかは決まりません。
短時間で完成できるシンプルな制作なら成立することがありますし、打ち合わせと修正を含めて8時間かかるなら別の判断になります。
相場を見るときも同じです
他のクリエイターが「1枚5,000円」で受けているからといって、自分も5,000円に合わせればよいとは限りません。
制作時間、対応範囲、修正条件、使用用途が違えば、同じ金額でも仕事としての条件は変わります。
手数料があるサービスでは「受取額」で計算する
コミッションサービスや販売プラットフォームを使っている場合、販売価格がそのまま手元に残るとは限りません。
たとえば10,000円で受注し、サービス手数料などを差し引いた受取額が9,000円だったとします。
総作業時間が5時間なら、9,000円 ÷ 5時間 = 1時間あたり1,800円です。
販売価格だけなら2,000円/時間ですが、受取額で見ると1,800円/時間になります。
価格を決める段階では、販売価格 → 手数料差引後の受取額 → 作業時間 まで続けて計算すると、収益性がわかりやすくなります。
特に固定手数料があるサービスでは、低価格になるほど販売価格に対する負担割合が高くなる場合があります。
「最低時給はいくらにする?」より先に現在地を出す
時給換算で価格を考えようとすると、「クリエイターなら時給3,000円?」「プロなら5,000円?」と、先に基準額を探したくなります。
ですが、職種や経験、顧客層、使用範囲まで違うクリエイター全体に適用できる共通の時間単価はありません。
先におすすめしたいのは、現在受けている仕事の数字を出すことです。
たとえば直近5件を記録します。
| 案件 | 受取額 | 総時間 | 1時間あたり |
|---|---|---|---|
| A | 8,000円 | 2時間 | 4,000円 |
| B | 15,000円 | 8時間 | 1,875円 |
| C | 6,000円 | 2時間 | 3,000円 |
| D | 20,000円 | 6時間 | 約3,333円 |
| E | 10,000円 | 7時間 | 約1,429円 |
こうして並べると、同じ人が受けている仕事でも差があることがわかります。
この例なら、単価がもっとも低いのは6,000円のCではありません。15,000円のBや10,000円のEのほうが、時間あたりで見ると低くなっています。
値上げを考えるとき、「一番安い商品から上げる」とは限らないわけです。
時間がかかりすぎている原因まで見る
1時間あたりの売上が低い仕事が見つかったら、すぐ値上げする前に理由を分けます。
たとえば8時間かかっている仕事でも、制作そのものに8時間かかるのと、制作4時間+修正4時間では、改善する場所が違います。
前者なら価格そのものを見直す候補です。
後者なら、
- 修正回数を決める
- 最初のヒアリングを整理する
- 追加修正を別料金にする
- ラフ確認の段階を設ける
といった条件整理で改善できることがあります。
連絡だけで時間を使っているなら、依頼フォームやテンプレートを整える余地があります。
価格設定を見るために時間を測っていたつもりが、仕事のどこに時間を取られているかまで見えてくるのが時間記録の利点です。
仕事が速くなったからといって値下げしなくていい
経験を積むと、以前5時間かかった制作が3時間で終わるようになることがあります。
ここで、「作業時間が短くなったから料金も下げるべきでは」と考える必要はありません。
同じ品質を短時間で出せるようになったのは、技術や経験を積んだ結果だからです。
たとえば10,000円の制作に、
過去:5時間
現在:2.5時間
かかるとします。
1時間あたりの売上は2,000円から4,000円へ上がります。
これは「取りすぎ」ではなく、仕事を効率よく完成できるようになった結果とも考えられます。
時間単価は価格を機械的に決定するための料金表ではなく、自分側の採算を見る数字として使うほうが扱いやすいでしょう。
クライアントが購入しているのは、作業時間そのものではなく成果物だからです。
商用利用や権利まで「時間」だけで価格を決めない
時給換算には弱点もあります。
5時間かけて作ったイラストを個人のSNSアイコンに使うケースと、企業が全国規模の広告キャンペーンで使うケースを、同じ「5時間だから同額」で考えるのは不自然です。
価格には制作時間以外の条件もあります。
- 使用媒体
- 商用利用の有無
- 使用期間
- 使用地域
- 二次利用
- 著作権の扱い
- 制作点数
- 修正範囲
- 納期
そのため、
制作時間から最低ラインを確認する
使用条件や付加価値を含めて最終価格を決める
という順番で考えると整理しやすくなります。
時間単価だけですべての制作料金を決める必要はありません。
「安いけれど短時間」の仕事は残してもいい
値上げの判断では、価格の絶対額だけを見ないほうがよいケースがあります。
たとえば3,000円の仕事でも30分で完了し、連絡や修正もほとんどないなら、時間あたりでは6,000円です。
反対に30,000円の案件でも、打ち合わせや修正を含めて20時間かかれば1時間あたり1,500円です。
高単価案件を増やせば収益が改善するとは限りません
見るべきなのは、単価 × 件数 × 必要時間です。
少額でも負担が少なく、安定して受注できる仕事なら残す意味があります。
価格は高いものの毎回多くの時間を取られる仕事なら、価格や条件を見直す候補になります。
コミッションは「1件増えたら何時間増えるか」を見る
Skebなどのコミッションは、基本的に受注するたび制作が発生します。
月1万円の依頼を3件受ければ売上は3万円です
6件なら6万円になりますが、制作時間もほぼ比例して増えます。
仮に1件5時間なら、制作時間はこうです。
| 3件 | 15時間 |
| 6件 | 30時間 |
| 10件 | 50時間 |
価格を下げてリクエスト数を増やすと、売上が増えても時間効率が悪化する場合があります。
依頼が多くなってきたクリエイターほど、月に何件受けられるかより、自分の制作時間をいくらで使うかを見る価値があります。
デジタル商品は「1件あたりの制作時間」では考え方が変わる
BOOTHなどで販売するデジタル商品は、コミッションとは収益構造が違います。
一度制作すれば、同じ商品を複数人へ販売できるからです。
たとえば制作に8時間かかった商品を1,000円で販売したとします。
手数料をいったん考えずに売上だけを見ると、こうなります。
| 販売数 | 売上 | 制作8時間に対する1時間あたり売上 |
|---|---|---|
| 1件 | 1,000円 | 125円 |
| 5件 | 5,000円 | 625円 |
| 10件 | 10,000円 | 1,250円 |
| 20件 | 20,000円 | 2,500円 |
| 50件 | 50,000円 | 6,250円 |
| 100件 | 100,000円 | 12,500円 |
コミッションなら受注数が100件になれば制作も100件必要です。
デジタル販売では、同じ制作時間から販売数を増やせます!
そのため、発売直後に時間あたりの売上が低くても、長期間売れ続ければ数字は改善します。
既存商品を持っているクリエイターが、新作を作るだけでなく商品ページや販売導線を見直す意味もここにあります。
ただし、アップデート、問い合わせ対応、販売ページ制作などに時間を使っているなら、その時間も後から加算してください。
月額支援は「FANBOXに使った時間」で見る
FANBOXやFantia、Ci-enのような月額支援では、1人の支援者につき1作品を作るわけではありません。
100人の支援者が同じ投稿を閲覧できます。
たとえば月の支援金から手数料を引いた受取額が45,000円で、FANBOX用の投稿や対応に月6時間使っているなら、45,000円 ÷ 6時間 = 7,500円/時間 と見ることができます。
もちろん、この数字だけで活動価値を判断するものではありません。
月額支援は、普段の創作活動そのものを支えてもらう意味もあります。
ただ、支援額を増やそうとして専用コンテンツを大量に作り始めた結果、月6時間 → 月20時間 へ増えれば、制作活動全体への影響は大きくなります。
支援者を増やすために特典を増やし続けるのではなく、既存の制作過程や活動報告を活用する考え方とも相性がいい数字です。
値上げを考えたいサイン
1時間あたりの売上を記録していると、価格を見直すタイミングも判断しやすくなります。
たとえば、次のような状態です。
- 同じ種類の依頼だけ時間あたりの売上が低い
- 修正や連絡を含めると想定時間を毎回超える
- 依頼が増えても売上より制作時間の増加が目立つ
- 受けるか迷う金額の依頼が増えた
- 自主制作の時間を削らないと対応できない
- 数年前から同じ価格のまま制作内容だけ増えている
- 技術や実績が増えたのに価格を一度も見直していない
すべて当てはまったから値上げ、というチェック表ではありません。
ただ、「忙しいのに収入が増えない」と感じるなら、一度時間あたりで数字を出す価値はあります。
値上げ以外で1時間あたりの売上を改善できることもある
時間あたりの売上を改善する手段は、値上げだけではありません。
たとえば、
- ヒアリング項目を先に決める
- 修正条件を整理する
- よく使うメールをテンプレート化する
- 納品作業を定型化する
- 依頼フォームで必要情報を先に集める
- 作業工程の一部を効率化する
- 利益の低いメニューを終了する
- 販売済みの商品を継続して活用する
価格を20%上げるのが難しくても、同じ仕事を20%短い時間で終えられるなら、時間あたりの売上は改善します。
ただし、作業効率を上げるために品質を落とす必要はありません。
毎回同じ説明を書いている、納品データ整理に不要な手間がある、といった制作以外の部分から削れる時間を探すほうが取り組みやすいでしょう。
1か月単位でも計算すると働き方が見えてくる
案件単位だけでなく、1か月全体でも計算できます。
たとえば副業で月80時間使い、受取額が120,000円だった場合、120,000円 ÷ 80時間 = 1,500円/時間 です。
内訳を見ると、
| 内容 | 時間 |
|---|---|
| 有償制作 | 45時間 |
| SNS・告知 | 10時間 |
| 問い合わせ・営業 | 8時間 |
| 商品制作 | 10時間 |
| 事務・売上管理 | 7時間 |
| 合計 | 80時間 |
だったとします。
有償制作だけを見ると悪くなくても、収益を得るために必要な活動全体では80時間使っています。
この数字が想定より低いなら、「もっと案件を増やす」だけが答えではありません
- 価格を上げる
- 利益率の低い仕事を減らす
- 既存商品の販売を伸ばす
- 問い合わせ対応を整理する
など、時間の使い方そのものを変える選択肢があります。
「時間あたり売上」は高ければ高いほどいいわけではない
数字を出し始めると、すべての活動を時間効率で評価したくなることがあります。
自主制作を10時間して売上0円なら、数字だけでは0円/時間です
しかし、その作品がポートフォリオになり、後から仕事につながることもあります。
SNS投稿、勉強、作品制作、イベント参加も同じです。
直接売上を生まない時間をすべて無駄と考える必要はありません。
1時間あたりの売上は、有償制作や販売の条件を比較するための物差しとして使うのが適しています。
創作活動全体を時給だけで評価してしまうと、将来の仕事につながる制作まで削ることになりかねません。
価格を決めるためではなく「続けられるか」を判断する数字にする
クリエイターの価格は、制作時間だけでは決まりません。
技術、需要、使用用途、権利、実績、作品そのものの価値など、さまざまな条件があります。
それでも時間を測る意味はあります。
- 売上は増えているのに、自由時間だけが減っている
- 依頼は多いのに、いつも納期に追われている
- 単価は高く見えるのに、手元に残る金額は少ない
こうした違和感を数字にすると、価格や仕事の受け方を見直しやすくなります。
まずは直近3〜5件について、
受取額 ÷ 受注から納品までに使った時間
を計算してみてください。
価格表だけを眺めていると見えなかった「割に合っている仕事」と「思った以上に時間を使っている仕事」が、かなりはっきり分かれてくるはずです。


