DESIGN GALLERY AWARD

デザイン・トレンド

初の「DESIGN GALLERY AWARD」優秀作が決定 0.06mmのワイヤーと「卵つと」から生まれた2つのデザイン

新しいデザインを作るために、新しい素材や技術が必要とは限りません。

2026年9月28日、日本デザインコミッティーが第一回「DESIGN GALLERY AWARD」の選考結果を発表しました。106件の応募から選ばれたのは、小野栞による「空間の輪郭」と、鈴木結菜による「Structure as package 補完し合うかたち」の2企画です。

片方は0.06mmのステンレスワイヤーを手で編み、存在感を限界まで薄くしていく試み。もう片方は、藁で卵を包んできた昔の包装「卵つと」を紙紐へ置き換え、包むという行為を改めて考える試みです。

方向はまるで違いますが、どちらも素材と手仕事を起点にしています。

約800回の展示を続けたギャラリーが、初めて企画を一般公募

舞台となる「デザインギャラリー1953」は、松屋銀座7階にある45平方メートルの展示スペースです。

1964年に開設され、これまで約800回の企画展を開催してきました。企画と運営を担ってきたのは、日本デザインコミッティーのメンバーです。

日本デザインコミッティー自体は1953年に設立され、創立メンバーには岡本太郎氏、丹下健三氏、柳宗理氏らが名を連ねています。

そんな場所が今回、初めて展覧会企画を一般から募集しました。

募集テーマは「あなたのデザインを展覧会にしてください」。

完成したポスターやプロダクトを送って順位を競う形式ではなく、45平方メートルのギャラリーで何を見せるのか、その展覧会自体をデザインするという公募です。

グラフィック、プロダクト、建築などジャンルは限定せず、個人・団体・年齢・国籍も問いませんでした。選ばれた2企画には副賞50万円と、デザインギャラリー1953で展示を実現する機会が与えられます。

106件を深澤直人、原研哉、佐藤卓らが審査

応募総数は106件。内訳は個人70件、団体36件でした。

選定委員を務めたのは、プロダクトデザイナーの深澤直人氏、デザイナーの原研哉氏、建築家の内藤廣氏、グラフィックデザイナーの佐藤卓氏、テキスタイルデザイナーの須藤玲子氏です。

審査では美しさや機能だけでなく、提案の背景にある思考、社会への問い、今後の展開可能性なども評価されました。

募集時に示されていた審査基準も興味深く、

  • 「提案性」
  • 「コンセプト」
  • 「デザイン品質」
  • 「実現性」

の4項目です。

つまり、アイデアだけでも、完成度だけでも足りません。

  • 何を問いかけたいのか。
  • その問いを45平方メートルの空間でどう見せるのか。
  • そして本当に展示として成立させられるのか。

コンペへ応募する人にとって、この4項目はそのまま企画書を見直すチェックポイントにもなります。

0.06mmのステンレスワイヤーで「何もない空間」を作る

第一期に展示されるのが、アーティスト/デザイナーの小野栞氏による「空間の輪郭」です。

小野氏は、編みや織りといったテキスタイルの技法を使って作品を制作してきました。

今回使うのは、0.06mmという極細のステンレスワイヤー。これを糸のように手で編み、ギャラリーのシルエットをかたどった大型の立体作品を制作します。

目的は、物を大量に置いて空間を埋めることではありません。作品が存在しているにもかかわらず、「何もない」と感じられる空間を作ろうとしています。

展示空間を作品で満たすのではなく、存在感を限界まで薄くすることで余白そのものを立ち上げる。展示デザインとして見ると、かなり変わったアプローチです。

「余白」を、空白ではなく物質で作る

グラフィックデザインで余白というと、文字や写真を置かなかった部分を指すことが多いでしょう。

小野氏の企画では、その関係が逆転します。何も置かないことで余白を作るのではなく、ステンレスワイヤーを途方もなく細かく編んだ物体を置くことで、「何もないように感じる場所」を作ります。

佐藤卓氏は、この企画について、既存の展示とは異なる実験的な提案である点を選出理由として挙げています。原研哉氏も、微細な編み物を空間へ配置することで生まれる未知の気配と、展示そのものを更新する可能性を評価しました。

余白は、単に要素を削除した結果ではない。見せたいものをどう配置し、周囲をどう感じさせるかまで設計して初めて生まれるものです。

紙面でもWebでも、「余白を増やせば洗練される」と機械的に考えるより、なぜそこを空けるのかまで考えたほうがいい。空間作品の話ですが、グラフィックにもつながる部分があります。

もう一つの受賞作は、昔の「卵のパッケージ」

Structure as package 補完し合うかたち展

第二期に展示される鈴木結菜氏の「Structure as package 補完し合うかたち」は、パッケージデザインをしている人なら特に見ておきたい企画です。

題材は「卵つと」。

卵つとは、藁を編んで卵を包み、運ぶために使われていた日本の包装です。

プラスチックや紙製の卵パックが普及する以前、身近にあった藁を利用し、割れやすい卵を保護しながら運べる形が作られていました。

鈴木氏は、その構造をそのまま復刻するわけではありません。現在は藁そのものが高価になっているため、素材を紙紐へ変更。紙紐の伸縮性を利用しながら、「卵を運ぶために包む」という目的から造形を考え直します。

「きれいな箱を作る」より前に、包む理由へ戻る

パッケージデザインという言葉から、箱のグラフィックを想像する人も多いと思います。

ロゴを置き、商品名を組み、色を決め、印刷加工を選ぶ。もちろん、それもパッケージデザインです。

ただ、卵つとには箱の表面がありません。素材そのものが、保護する機能と形を同時に作っています。

鈴木氏が注目しているのも、その合理性と造形の関係です。

「包む」という目的へ真っすぐ進んだ結果として生まれた形なのに、それが装飾として見ても美しい。

佐藤卓氏も講評で、包むことの合理性と装飾性の関係をこの企画の重要な部分として挙げています。原研哉氏は、暮らしの中で育った包装を「なってきたかたち」と捉え、その続きを探る姿勢を評価しました。

パッケージを考えるとき、「何を描くか」の前に「なぜこの形で包むのか」まで戻ってみる。

既製の箱へグラフィックを載せる仕事とは別に、そんな入口もあります。

藁を紙紐へ変えるだけでは「再現」にならない

昔の包装を現代素材で作ると聞くと、藁を紙紐へ置き換えただけにも見えます。

でも、素材が変われば条件も変わります。

  • 太さ
  • 硬さ
  • 摩擦
  • 伸縮性
  • 編んだときの形
  • 荷重に対する動き

藁で成立した形を、そのまま別素材へ移せるとは限りません。

だからこそ、鈴木氏は紙紐の伸縮性を利用しながら造形を再検討しています。

ここは自主制作でも参考になります

昔の印刷物やパッケージを参考にするとき、表面の見た目だけを再現すると「レトロ風」で終わることがあります。

  • なぜその形になったのか
  • なぜその紙だったのか
  • なぜその綴じ方だったのか

元の制約まで調べ、その考え方を現在の素材や制作環境へ置き換えると、単なる復刻とは違うデザインになります。

2作品とも「手作業」が消えていない

興味深いのは、選ばれた2企画とも手作業が重要な位置を占めていることです。

小野氏はステンレスワイヤーを手で編む。

鈴木氏は紙紐を組み、卵を包む形を探る。

デジタルツールを否定するような話ではありません。

コンピューターで形を作れる時代だからこそ、「その素材を触らなければ決められない部分」がはっきり見えます。

  • 紙を使うなら折ってみる
  • 紐なら引っ張ってみる
  • 印刷なら刷ってみる

画面上で完成予想図を整える前に、素材が何をしたがるのかを確かめる。

今回の2作品に共通しているのは、コンセプトを素材へ押し付けるのではなく、素材の性質を観察しながら形を決めているところです。

展示企画そのものをデザインするという考え方

第一回「DESIGN GALLERY AWARD」で面白いのは、受賞作品だけではありません。

募集対象を「展覧会企画」にしたこと自体にも注目したいところです。

ポスターコンペなら、一枚の完成度を高めればいい。パッケージコンペなら、商品を包むものを設計します。

展覧会ではそうはいきません。

  • 入口から何が見えるのか人はどこへ立つのか
  • 作品同士にどのくらい距離を取るのか
  • 説明文をどこへ置くのか
  • 照明をどうするのか

さらに、45平方メートルという限られた場所で成立させなければなりません。

作品を作ることと、作品をどう見せるかを分離できない公募です。

イラストレーターが個展を開くときも同じです。

壁へ作品を等間隔で並べれば展示にはなります。でも、作品を見る順番、額装、壁面の色、キャプション、物販まで含めて考えれば、展示そのものを一つの作品として設計できます。

審査員の講評まで読めるのが貴重

今回の発表では、5人の選定委員による講評が受賞作ごとに公開されています。

コンペの結果発表では、「独創性が高く評価されました」と数行で終わることも珍しくありません。

今回は違います。同じ作品を見ても、深澤直人氏、原研哉氏、内藤廣氏、佐藤卓氏、須藤玲子氏がそれぞれ別の部分を見ています。

何が選ばれたかだけでなく、デザイナーが他人の作品をどう読むのかまで確認できる資料です。

コンペへ応募する予定がなくても、公式発表の講評部分だけは読んでおく価値があります。

展示は2027年2月から

小野栞氏「空間の輪郭展」は、2027年2月17日から4月12日まで開催予定です。

続く鈴木結菜氏「Structure as package 補完し合うかたち展」は、4月14日から6月7日まで。どちらも松屋銀座7階「デザインギャラリー1953」で展示されます。

結果発表から展示まで半年近くあります。

つまり、今回公開されている画像や企画書上の造形が、そのまま最終展示になるとは限りません。

受賞したのは完成した展覧会ではなく、これから実現される企画です。

0.06mmのステンレスワイヤーが45平方メートルの空間をどう変えるのか。紙紐と卵から始まった造形が、ギャラリー規模までどう展開されるのか。

完成後にもう一度見比べたい2作品です。

関連リンク

DESIGN GALLERY AWARD 公式サイト
日本デザインコミッティー 公式サイト

-デザイン・トレンド
-, ,