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ゲームの箱を「作り直せるデータ」で保存|GOGが3Dスキャン+展開図を配布

クラシックPCゲームを現代のPCでも動かせる状態で販売してきたGOGが、今度はゲームの「箱」まで保存し始めました。

『Myst』『Hitman: Codename 47』『Descent』など5作品のパッケージを実物から3Dスキャンし、回転して鑑賞できるデータに加えて、自宅で印刷・組み立てられるデータも提供しています。

興味深いのは、箱の写真をアーカイブしただけではないことです。パッケージを再び物体として作れるところまで戻している。 デザインを保存するとき、完成画像だけ残せば十分なのかを考えさせるプロジェクトです。

保存対象になったのはゲーム本編だけではない

GOGは9月8日、『Star Trek: 25th Anniversary』と『Armikrog』をGOG Preservation Programへ追加しました。すでに対象だった『Descent』『Hitman: Codename 47』『Myst』と合わせた5作品について、オリジナルのPCゲームパッケージを新たにデジタル保存しています。

GOG Preservation Programは、古いゲームを現在のOSでもプレイできるよう改修し、互換性を維持していく取り組みです。今回はその範囲をソフトウェアから物理パッケージへ広げました。

ゲーム本編のプログラムが残っていても、発売当時の箱、説明書、地図、印刷物まで残るとは限りません。

紙や厚紙で作られたパッケージは、時間が経てば傷み、処分され、流通量も減ります

GOGは今回の取り組みについて、ゲームを現代のPCで動かし続けることと、失われやすい物理パッケージを残すことを、同じ「保存」の延長として位置付けています。

箱を360度回して見られる3Dデータに

5作品では、現存するオリジナルパッケージを表、裏、背など含めてスキャンし、回転させて確認できる3Dモデルが作られました。

WindowsやMacに標準搭載されている3Dビューアーで開けるため、箱を所有していなくても立体として観察できます。

平面写真では見落としやすい情報もあります。

  • 表紙と背表紙がどうつながっているか
  • 裏面にどれだけ情報を詰め込んでいるか
  • 側面ではロゴがどの方向を向いているか
  • 箱の厚みや比率はどうなっているか

パッケージデザインは正面だけで完成するものではありません。

商品棚で見える面、持ったときに見える面、開封するときに触れる場所まで含めてひとつのデザインです。3Dスキャンで残すことで、当時のデザイナーが設計した「面と面の関係」まで後から確認できます。

さらに、自分で箱を印刷して組み立てられる

今回もう一段面白いのが、鑑賞用3Dモデルとは別に、印刷して組み立てるための平面データも用意したことです。

GOGはBig Box Collectionと共同で、元の箱を平面へ展開したデータを提供しています。購入済みユーザーは対象ゲームの特典から取得し、印刷、切断、折り、接着して自分で箱を再現できます。GOGはこれを、棚へクラシックPCゲームの箱を戻すためのペーパークラフトとして紹介しています。

報道によれば、提供ファイルにはPDF、SVG、Adobe Illustrator形式などが含まれます。

SVGは、線や図形を数値情報として保持するベクター形式です。拡大しても輪郭が荒れにくく、Illustratorなどで編集できるため、印刷用データにも使われます。

ここまで来ると、「昔の箱の画像を保存した」というより、箱を再製造するための設計情報を保存したと考えた方が近くなります。

保存するならJPEGだけで十分なのか

グラフィックデザインのアーカイブでは、完成物の写真やスキャン画像だけが残るケースも珍しくありません。

ポスターなら、それでも多くの情報を確認できます。

しかし立体物は違います

パッケージなら展開図があります。冊子ならページ順があります。特殊印刷なら箔やエンボスのように、平面スキャンでは再現しにくい情報があります。

今回のGOGの保存方法を分解すると、保存している情報の範囲がわかりやすくなります。

保存方法残せるもの
正面写真メインビジュアル、ロゴ、配色
全面スキャン細かな文字、裏面、側面
3Dモデルサイズ感、厚み、面同士の関係
展開データ折り位置、面構成、再制作方法
実物紙質、印刷、加工、経年変化

すべてを残せれば理想ですが、保管場所や費用には限界があります。

そこで「物そのものを保存できなくなっても、将来もう一度作れる情報を残しておく」という方法が出てきます。

Big Box Collectionは一人で始まった個人アーカイブ

GOGが今回組んだBig Box Collectionは、Benjamin Wimmer氏が続けてきた個人プロジェクトです。

PCゲームの大型パッケージを集め、立体的に閲覧できる形でWeb上へ記録してきました。GOGとのインタビューでWimmer氏は、このプロジェクトを大規模なデータベースにすることより、自分の棚を仮想的に再現するものとして始めたと話しています。

2025年には10周年を迎えました

個人が趣味で作っていたアーカイブが、公式のゲーム保存プロジェクトへ組み込まれたことも興味深いところです。

大手企業が最初から資料を整備したわけではありません。

「この箱を残したい」という個人の収集活動が10年間積み重なり、後から公式側の保存活動と接続しています。

同人誌、ZINE、インディーゲーム、フライヤーなどでも、似たことは起こり得ます。

その時代には身近すぎて保存価値を意識されなかったものが、10年、20年後には当時のデザインや文化を知る貴重な資料になるからです。

昔のPCゲームは「箱を開ける前」からゲームだった

1990年代前後のPCゲームでは、現在より大きな箱が使われることがありました。

中にはゲームディスクだけでなく、厚い説明書、地図、設定資料、カードなどが入った製品もあります。

Big Box CollectionのWimmer氏はGOGのインタビューで、こうした付属物について、ゲーム世界が現実側へあふれ出してくるような存在だったと振り返っています。地図なら、まだ見ていない土地を想像させる。ゲーム内の魔法書を模した冊子なら、起動する前から作品世界へ入れる。

現在なら、その多くをゲーム内UIやWebページへ収録できます。

効率だけなら物理物を作る必要はありません。

それでも箱や説明書が記憶に残るのは、情報を伝える以上の役割を持っていたからでしょう。

デジタル販売では「棚を眺める偶然」が消える

Wimmer氏は、物理的な棚とデジタルストアではゲームとの出会い方も違うと指摘しています。

棚なら、作品をタイトルで検索しなくても、箱の絵、サイズ、置かれた位置などから偶然目に入ります。

デジタルストアでは検索やレコメンドが中心です。大量の商品から探すには便利ですが、「隣に置いてあった変な箱が気になった」という出会い方は起きにくくなります。

パッケージは商品を保護するだけでなく、物理空間の中で作品を発見させる広告でもありました。

書店の装丁にも似ています

目的の本を検索して買うECでは、表紙画像は数百ピクセル程度で表示されます。一方、書店では判型、紙、背幅、帯、隣の本との関係まで含めて目に入ります。

媒体がデジタルへ移ると、作品そのものだけでなく「作品と出会うために作られていたデザイン」まで役割を失うことがあります。

同人誌でも、完成JPEGだけ残しておけばいいとは限らない

今回の話は、古いPCゲームだけのものではありません。

同人誌やZINEを作る場合も、完成した表紙画像だけ保存して、入稿データや仕様を消してしまえば、数年後に同じものを再版するのが難しくなります。

残しておくと役立つ情報には、たとえば次のようなものがあります。

  • 表紙・本文の印刷データ
  • 使用フォントとライセンス情報
  • 判型、ページ数、背幅
  • 使用紙
  • PP加工や箔押しなどの加工指定
  • 印刷所
  • 色見本
  • 展開図や型
  • 奥付に載せた発行情報

もちろん、すべての作品を永久保存する必要はありません。

ただ、自分にとって重要な本なら「完成PDF」だけでなく、再版できる情報まで一緒に残しておくと、アーカイブとしての価値が変わります。

物理物を捨てても、「物体性」まで捨てなくていい

デジタルアーカイブというと、物体を画像へ変換することだと思いがちです。

GOGとBig Box Collectionがやっているのは少し違います。

箱をデジタル化する一方で、最終的にはもう一度紙へ戻せるようにしています。

物理 → デジタル → 物理 という往復ができる状態です

もちろん家庭用プリンターで作った箱は、当時の商品そのものにはなりません。紙質、印刷方式、表面加工、厚みなどは異なります。GOG側もオリジナル製品を完全再現した復刻版として販売しているわけではありません。

それでも、面の構成やグラフィックを立体として体験できます。

デザインの保存方法として考えると、これは重要です。

画像だけなら「見る資料」ですが、展開図まであれば「作って確かめる資料」になります。

デザインアーカイブは、未来の制作者のためにもある

Wimmer氏は最近、ゲーム箱のカバーを描いたアーティストの調査にも力を入れていると話しています。

当時のゲームを保存するだけでなく、「誰がこの絵を描いたのか」という制作背景も記録したいという考えです。

古いパッケージを見て、参考にしたいと思っても、

  • 誰がデザインしたのかわからない
  • 何年の製品かわからない
  • どんな仕様だったかわからない

では、作品史として追うのが難しくなります。

現在制作している同人誌やZINE、ポスター、パッケージも同じです

完成物に加えて作者、制作年、印刷方法、使用素材まで残しておけば、後から見た人はデザインの背景まで追えます。

「保存」は懐かしむためだけではありません。

次に作る人が、過去の制作物を資料として使える状態を作ることでもあります。

GOGがクラシックゲームの箱を3D化し、さらに切って折れるデータへ戻したことは、その考え方をわかりやすく見せています。

ゲーム本編を100年後に動かせても、箱や説明書、広告、売場まで消えてしまえば、当時そのゲームがどう売られていたのかはわかりません。

作品と、その周りにあったデザイン。

どちらも文化の一部として残そうとするところに、今回のBig Box保存の面白さがあります。

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