ZINE(ジン)とは、個人や少人数のグループが自分たちで企画・制作・発行する自主制作の出版物です。
写真、イラスト、漫画、エッセイ、旅行記、日記、研究、詩、料理など内容に決まりはなく、数枚の紙をホチキスで留めたものから印刷会社で製本した作品まで形も自由です。
同人誌やリトルプレスとも重なる部分が多く、「この条件ならZINE」という厳密な境界線はありません。むしろ、自分が残したいものや誰かに伝えたいものを、商業出版の枠に縛られず一冊にできることがZINEのおもしろさです。
ZINEのいちばん大きな特徴は「何を本にするかを自分で決められる」こと

一般的な商業出版では、出版社が企画、編集、印刷、流通などに関わります。
ZINEはその流れを作者自身、または小さなチームで担います。
セルフパブリッシングとは、出版社を通さず、作者自身が出版物を企画・制作・発行することです。日本語では自主出版や自己出版と呼ばれることもあります。
誰かから「このテーマでは売れない」と判断されても、自分が作りたいなら作れる。
旅行中に撮った写真だけをまとめてもいいし、好きな喫茶店について延々と書いてもいい。
日記、イラスト、短歌、街で拾ったものの記録、架空の商品カタログでも一冊になります
サイズにも明確なルールはありません。
A5やB6のような一般的な冊子だけでなく、手のひらサイズ、正方形、蛇腹折り、1枚の紙を折って作ったものなど、出版物そのものの形まで表現の一部にできます。
ニューヨーク公共図書館はZINEを、「独立して印刷され、ときには手作業で制作される少部数の出版物」と説明しています。メトロポリタン美術館も、「DIY文化と密接につながった自主出版物」としてZINEを紹介しています。
DIYは「Do It Yourself」の略で、専門業者などへすべて任せるのではなく、自分自身で作る考え方を指します。ZINEでは文章だけでなく、編集、デザイン、印刷、製本まで作者自身で手がけることもあります。
ZINEという名前は「fanzine」から広がった

現在のZINE文化につながる存在としてよく挙げられるのが、1930年代から1940年代のアメリカでSFファンが制作していた「fanzine(ファンジン)」です。
fanzineは「fan」と「magazine」を組み合わせた言葉で、ファンが自分たちで作る雑誌や冊子を指します。
メトロポリタン美術館も、現在のZINEにつながる出版物として1930〜40年代のSFファンダムによるfanzineを挙げています。一方、それ以前にもハーレム・ルネサンス期の「little magazine」のような、小規模な自主出版文化がありました。
その後、ZINEは音楽やサブカルチャーとも強く結びつきます。
1970年代以降のパンク文化、フェミニズム、クィアカルチャー、ファンコミュニティなどでは、大手メディアを通さず自分たちの考えや情報を伝える手段として自主制作冊子が使われてきました。
British LibraryのZINEコレクションにも、フットボールのfanzineからパンク、riot grrrl、現代の社会的テーマを扱うZINEまで幅広い資料が収蔵されています。
現在では政治的・社会的なテーマに限らず、写真、旅行、食、イラスト、ファッション、日記など扱われるジャンルはさらに広がっています。
ZINE・同人誌・リトルプレスの違い
ZINEについて調べ始めると、最も気になるのが「同人誌やリトルプレスと何が違うのか」ではないでしょうか。
結論からいうと、明確な線引きはありません。
MOUNT ZINEを運営するMOUNTも、ZINEを「ZINE(リトルプレス・同人誌)」と案内しています。MOUNT ZINE運営者へのインタビューでも、冊子という意味では大きな違いはなく、作り手の意識やテーマによって呼び方が変わると説明されています。
傾向を整理すると以下のようになります。
| 呼び方 | 主な特徴 | よく見られる内容 | 流通 |
|---|---|---|---|
| ZINE | 個人・少人数による自由な自主出版 | 写真 イラスト 日記 旅行 批評 漫画など | イベント 書店 通販 直接販売 |
| 同人誌 | 同じ趣味・創作ジャンルを共有する文化との結びつきが強い | 漫画 小説 評論 二次創作 一次創作など | 同人イベント 専門店 通販 |
| リトルプレス | 個人や小規模出版社が発行する小規模出版物 | 雑誌 文芸 旅行 カルチャーなど | 独立系書店 一般書店 通販 |
| 自費出版 | 制作費を作者側が負担して出版する方式 | 小説 自伝 作品集など | 書店 通販 個人配布など |
| アーティストブック | 本そのものを作品として制作 | 美術 写真 グラフィックなど | ギャラリー 専門書店 イベント |
これは分類の目安であって、ルールではありません。
ZINEと同人誌の違い
日本では「同人誌」と聞くと、漫画やアニメなどの二次創作をイメージする人も多いでしょう。
ただし、同人誌=二次創作ではありません。
オリジナル漫画、小説、評論、研究、鉄道、旅行、歴史など、一次創作や情報系の同人誌も以前から数多く作られています。
ZINEとの違いは内容よりも、文化的な文脈や作者自身がどう呼んでいるかによる部分が大きくなっています。
写真と旅行記をまとめた冊子を「ZINE」と呼んでも「同人誌」と呼んでも不自然ではありません。
無理に分類する必要はなく、ZINEと同人誌は一部が大きく重なっていると考えた方が現状には近いでしょう。
ZINEとリトルプレスの違い
リトルプレスは、個人や小規模な出版社・編集チームなどが発行する少部数の出版物を指す言葉として使われています。
ZINEよりも編集された雑誌や書籍に近い印象で使われることがありますが、こちらも厳密な定義はありません。
定期刊行する旅雑誌やカルチャー誌を「リトルプレス」、個人の写真や日記をまとめた一冊を「ZINE」と呼ぶケースはあります。
一方で、まったく同じ出版物を人によって「ZINE」「リトルプレス」と呼び分けることもあります。
名前より、中身を見る方が早い世界です。
ZINEと自費出版の違い
自費出版は出版物のジャンルではなく、誰が出版費用を負担するかを表す言葉です。
出版社が制作費を負担する商業出版に対し、作者側が費用を負担して本を作れば自費出版になります。
そのためZINEも広い意味では自費出版に含まれることがあります。
ただ、自費出版という言葉は、小説や自伝などを印刷会社・出版社のサービスを使って書籍化する場合にも使われます。
ZINEはそれよりも、企画・デザイン・形・売り方まで作者自身で自由に組み立てる文化として語られることが多い言葉です。
ZINEにはどんなものがある?

ZINEにテーマの決まりはありません。
そのため、店やイベントを見ると驚くほど違う冊子が同じ「ZINE」として並んでいます。
代表的なジャンルを挙げると、
- 写真ZINE
- イラストZINE
- 漫画ZINE
- エッセイ・日記ZINE
- 旅行ZINE
- 詩・短歌ZINE
- 食・料理ZINE
- ファッションZINE
- 音楽ZINE
- 建築・街歩きZINE
- 研究・評論ZINE
- 社会問題を扱うZINE
- コラージュZINE
- 作品集・ポートフォリオ型ZINE
などがあります。
ジャンル同士を組み合わせても問題ありません。
旅行写真の横に日記を書く。イラストと短歌を組み合わせる。喫茶店の写真と注文したメニューだけを記録する。
商業雑誌なら「誰が読むのか」を説明しにくい企画でも、その狭さ自体がZINEでは魅力になります。
ZINEは「上手な人だけが作る作品集」ではない
デザインの整ったZINEをSNSで見ると、「自分には作れない」と感じるかもしれません。
しかし、ZINEは必ずしも完成された作品集である必要はありません。
コピー用紙1枚でも作れます
手書きの文字だけでもいい。家庭用プリンターで印刷してホチキスで留めてもいい。コンビニでコピーした紙を折るだけでも成立します。
メトロポリタン美術館がZINEをDIY文化と結びつけて説明しているように、ZINE文化には「完璧な出版物を作る」より、自分の手で媒体を作り、外へ出すことそのものを楽しむ側面があります。
印刷や装丁へ凝りたくなったら、そこから紙を変えたり、特色印刷やリソグラフを試したり、糸で綴じたりすればいい。
リソグラフとは、理想科学工業のデジタル印刷機「リソグラフ」を使った印刷方法です。色ごとに版を重ねるため、独特な発色やズレ、かすれが生まれ、ZINEやアートブックでもよく使われます。
最初から高価な印刷を選ぶ必要はありません。
なぜ今、紙のZINEを作るのか

写真も文章もイラストも、SNSなら無料ですぐ公開できます。
それでも紙のZINEは作られ続けています。
デジタルではタイムラインに流れていく写真や文章も、一冊にまとめると「最初から最後まで読む順番」が生まれます。
写真を10枚投稿するのと、10枚の写真をページ順に配置して本にするのでは、同じ素材でも受け取られ方が変わります。
表紙を開き、紙をめくり、途中で見開きがあり、最後のページで終わる。
その順番そのものを作者が設計できるのが本という媒体です。
さらにZINEは物として残ります。SNSの投稿は数年前まで遡らなければ見つからなくなるかもしれませんが、本棚にあるZINEは何年経っても手に取れます。
「多くの人へ届ける」という点ではWebの方が圧倒的に効率的です。
それでも、誰かの手元に一冊残ることを目的にできるのが紙の強さでしょう。
ZINEはどこで買える?
ZINEは一般書店でも販売されることがありますが、一般的な商業出版物ほど流通網が統一されていません。
探しやすい場所は、
- ZINE専門店
- 独立系書店
- アートブックショップ
- ギャラリー
- ZINEイベント
- 文学フリマ
- BOOTHなどの通販サイト
- 作者自身のオンラインショップ
などです。
東京ならMOUNT ZINE、platform3、タコシェ、Utrecht、flotsam booksなど、店ごとに違ったジャンルのZINEを扱っています。
東京で実店舗を巡りたい人は、「東京でZINEが買える本屋・ショップ10選|専門店から独立系書店まで」もあわせて確認してください。
イベントで探したい場合は、全国各地でZINEフェスや文学フリマが開催されています。
開催予定は「ZINEイベント・即売会まとめ【2026年最新】」で随時更新しています。
ZINEはいくらくらい?
ZINEには定価の基準がありません。
数百円の小冊子もあれば、写真集や特殊な印刷・製本を使った数千円の作品もあります。
価格が変わる主な要素は、
- ページ数
- サイズ
- 印刷部数
- カラー/モノクロ
- 使用する紙
- 製本方法
- 特殊加工
- 作者自身で製本するか
- 印刷会社へ依頼するか
などです。
ZINEは少部数で制作されることが多いため、商業出版の書籍より1冊あたりの印刷費が高くなることがあります。
「ページ数が少ないのに1,500円する」と感じる冊子でも、20部しか刷っていなかったり、特殊な紙や印刷方法を使っていたりすれば、価格の多くが制作費ということもあります。
値段だけではなく、どう作られているかを見るのもZINEのおもしろさです
初めてZINEを買うなら、内容以外も見てみる

一般の本を買うときはタイトルや内容を重視しますが、ZINEでは本そのものを見る楽しみがあります。
- 表紙の紙を触る
- ページを開いたときの余白を見る
- 写真がページをまたいでいるのか、小さく配置されているのかを見る
- ホチキスで留めただけなのか、糸で縫われているのかを見る
印刷がきれいに揃っていないことさえ、作品の雰囲気になっている場合があります。
デザイナーやイラストレーターなら、内容だけでなく「なぜこのサイズにしたのか」「なぜこの紙なのか」と考えながら見ると、ZINEから学べることは多いでしょう。
ZINEはどうやって作る?
ZINE制作に必須のソフトや方法はありません。
最もシンプルなら紙とペンだけでも作れます。
パソコンで制作する場合は、Adobe InDesign、Illustrator、Affinity Publisher、Canvaなどを使う方法があります。
写真中心ならPhotoshopやLightroomで写真を調整してからレイアウトソフトへ配置する方法もあります。
大まかな流れは、
- テーマを決める
- 入れる文章・写真・イラストを集める
- サイズとページ数を決める
- ページの順番を決める
- レイアウトする
- 印刷する
- 製本する
- 必要なら販売する
となります。
初めてなら、完成度を上げることより一度最後まで一冊作ってみることを優先してもいいでしょう。
8ページの薄いZINEを一冊完成させるだけでも、「次は紙を変えたい」「写真をもっと大きくしたい」「文章を減らしたい」と、自分が作りたいものが見えてきます。
ZINEを作ったらどこで売る?
作ったZINEは、自分で販売先を決められます。
- 代表的なのはイベント、書店への委託、オンライン販売です。
- ZINEフェスや文学フリマなら、作者自身が読者へ直接販売できます。
- 独立系書店やZINE専門店では、募集条件を満たせば委託販売を依頼できる場合があります。
- オンラインならBOOTHやBASE、STORES、自分のWebサイトなどを使う方法があります。
販売方法によって、手数料、発送、在庫管理、読者との距離が変わります。
一つだけに絞らず、
- イベントで販売
- 残った分をオンライン販売
- 一部を書店へ委託
という組み合わせもできます。
ZINEは読む人にとっても自由な本
ZINEというと「作る側」の話が多くなりがちですが、読む側にとってもおもしろい媒体です。
一般の書店では、どうしても一定数の読者が期待できるテーマが中心になります。
ZINEにはその制約がありません。
- 作者が一週間だけ通った喫茶店の記録
- 近所にある階段だけを撮った写真集
- 祖父母のレシピ
- 一人旅で泊まったホテルの机だけを集めた冊子
自分では考えたこともなかったテーマを、誰かが異様な熱量で一冊にしていることがあります。
ZINEを好きになると、「有名な作品を探す」よりも、誰がこんな本を作ったんだろうと思える一冊を探すこと自体が楽しくなってきます。
ZINEに正解はない
ZINEは「この作り方でなければならない」というルールがほとんどありません。
印刷会社へ頼んでもいいし、自宅で印刷してもいい。
100ページあってもいいし、8ページでもいい。
100冊売ってもいいし、友人に3冊だけ渡してもいい。
商業出版ほど多くの人に届かない代わりに、何を作るかを自分で決められます。
ZINEと同人誌、リトルプレスのどこに分類されるかで迷ったら、無理に答えを出す必要もありません。
MOUNTがZINE、リトルプレス、同人誌を重なるものとして扱っているように、現場でも呼び方の境界は柔らかいものです。
「これを一冊にして残したい」。ZINEは、その気持ちから始められる出版物です。

