ロンドンのInstitute of Contemporary Arts(ICA)で、2026年9月12〜13日の2日間「GLUE Book Fair 2026」が開催されています。
参加する出版社は90以上。アーティストブックや独立出版物を販売するだけでなく、トーク、ワークショップ、新刊発表、展示、パフォーマンスまで組み込まれたイベントです。
日本のZINE・同人誌イベントと比べても興味深いのは、本を販売するマーケットと、出版について考えるプログラムがほぼ一体になっていることです。
90以上の出版社が参加
GLUE Book FairはICAが毎年開催している独立出版・アーティスト出版のブックフェアです。
2026年は90以上の出版社が集まり、9月12日は12時〜19時、13日は12時〜18時。ブックフェア自体は入場無料で、トークやワークショップは5ポンドです。
「artist publishing」は、アーティスト自身や独立した小規模出版社が、本という形式を作品や表現媒体として扱う出版活動を指します。一般的な商業出版よりも、作品集、ZINE、写真集、実験的な冊子などを含む範囲が広い言葉です。
フォトブックの未来を話すトークも開催

9月12日には、「写真集出版の未来(What’s next for photobook publishing?)」と題したトークセッションを開催。
登壇者のジェム・フレッチャー(Gem Fletcher)氏、キャンベル・アディ(Campbell Addy)氏、ギャビー・ローラン(Gabby Laurent)氏の3名が、写真集が自身の制作にどんな役割を持つのか、DIY出版や独立出版、組織との出版経験などについて話しています。
写真をSNSへ投稿するだけなら、作品を公開するコストはほぼありません。
それでも写真集を作る意味はどこにあるのか。
ページ順、判型、紙、余白、印刷、装丁を決めることで、画像の集合がひとつの作品へ変わります。デジタルで作品を公開できる時代だからこそ、物理的な本を作る意味を改めて考えるテーマです。
「誰が時代の空気を決めるのか」も出版イベントのテーマに
翌9月13日には、「時代精神(ツァイトガイスト)を決めるのは誰か?――現代の出版シーンにおけるトレンドの変遷(Who decides the zeitgeist? What’s in and out in contemporary publishing?)」をテーマとしたパネルディスカッションが開催されます。
登壇者には、SMUT Press、HELA Press、Tummy Ache Magazineといったインディペンデントな出版プロジェクトに加え、Studio Nocturneのフローラ・ガウ(Flora Gau)氏が参加し、現代の出版界におけるトレンドの創出や価値観の変化について議論を交わします。
zeitgeistは「時代精神」「その時代特有の空気」といった意味のドイツ語です。デザインや出版では、何が現在らしい表現として受け入れられているのかを考える際にも使われます。
出版社が完成した作品を並べるだけでなく、今どんな本を作るべきか、誰がトレンドを形づくっているのかまで議論する場になっています。
新刊発売と展示を同時に行う

イベント期間中には、新刊写真集の刊行に合わせたスペシャルな展覧会も開催されます。
写真家のジェシー・グラザード(Jesse Glazzard)氏による新刊フォトブックの出版に連動し、個展「The Sound of Dirt and Beauty」が9月12日から20日まで開催されています。同作は、インディペンデント出版プラットフォームのSelf Publish, Be Happyからのリリースです。
また同期間中には、カルペシュ・ラティグラ(Kalpesh Lathigra)氏とOval Pressによる共同新刊プロジェクトの展示も併せて行われています。
本をテーブルに置いて販売するだけではなく、出版 → 展示 → トーク → 販売までをひとつの発表として設計しています。
ワークショップでは「本を読む」以外の参加も

GLUEでは、参加者が手を動かすワークショップも開催されています。
Ibrahim Azabによる「Remixing Capital Landscapes」では、平面画像をもとに都市景観の3D作品を組み立てるプログラムを実施。
9月13日にはKairo UroviとEva Jonasによるワークショップも予定されています。
本の販売イベントなのに、本だけを扱わない。
画像、立体、写真、パフォーマンスなどを横断しながら出版を考えていることが、GLUEの特徴です。
日本のZINEイベントにも応用できる考え方
国内でもZINEやアートブックを販売するイベントは増えています。
GLUEの構成から参考にできるのは、イベントを「本を売る場所」だけにしないことでしょう。
たとえば個人主催の小規模イベントでも、
- 制作者による制作過程のトーク
- 使用した紙や印刷の展示
- 製本ワークショップ
- 新刊と原画の同時展示
- 装丁デザイナーとの対談
- ZINEを作るための公開制作
などを組み合わせられます。
作品を売る場所から、「なぜこの本を作ったのか」まで共有する場所へ広げることで、冊子自体への理解も深まります。
自主出版は「物」だけでなくコミュニティを作る
ICA自身もGLUEについて、現代のクリエイティブ出版を支える「artist-led networks」に光を当てるイベントだと説明しています。
個人出版は出版社を通さず作品を出せることが大きな特徴ですが、それは完全に一人で活動するという意味ではありません。
印刷所、デザイナー、写真家、イラストレーター、書店、イベント、読者、別の出版社など、周囲との関係によって活動が続いていきます。
GLUE Book Fairは、本を商品として並べるだけでなく、そうした自主出版を続けるための関係そのものをイベント化していると見ることができます。
日本の同人誌やZINE文化とは成立過程が異なりますが、「個人で本を作り、直接届ける」という点では重なる部分も多いはずです。
自主制作イベントのあり方を考えるうえでも、海外事例として追っておきたいブックフェアです。