漫画原稿をGoogle Driveへアップロードしたことをきっかけに、Googleアカウントが停止されたという漫画家の事例が話題になっています。
問題はGoogle Drive内のファイルだけではありません。同じGoogleアカウントで利用しているGmailなどにもログインできなくなる可能性があり、仕事の連絡や各種サービスへのログインまで巻き込まれる恐れがあります。
「自分で描いた作品を、自分だけが見るクラウドへ保存するだけなら問題ない」と考えていたクリエイターにとっては、保存方法そのものを見直すきっかけになりそうです。
過去の漫画原稿をGoogle Driveへアップロード中にアカウント停止
ITmedia NEWSが2026年9月16日に報じたのは、『うわこい』『あきそら』などを手掛ける漫画家・糸杉柾宏氏の事例です。
糸杉氏は2026年5月、過去に描いた漫画のデータをGoogle Driveへアップロードしている途中で警告を受け、その後の再審査請求も却下され、Googleアカウントが停止されたとされています。
この問題について、NPO法人うぐいすリボンが9月13日に開催したオンライン講演会「漫画等のクラウド保存の規制問題の背景と展望」で、駿河台大学の八田真行教授が背景を解説しました。
今回の件で押さえておきたいのは、「日本で販売・公開できる漫画」と「Googleのサービス上で保存できるコンテンツ」は必ずしも同じ基準ではないという点です。
Googleのポリシーでは「漫画」も対象になっている
Googleのアカウント無効化に関する公式ヘルプでは、「児童の性的虐待と搾取」に関する禁止コンテンツについて、児童性的虐待のコンテンツに「漫画を含む」と明記されています。
つまり、写真や動画に実在する児童が写っている場合だけを想定した規定ではありません。
一方、Google Drive、ドキュメント、スプレッドシートなどに適用される公式ポリシーでは、芸術、教育、ドキュメンタリー、科学などの文脈を考慮して例外を設ける場合があるとも説明されています。
そのため、「漫画を保存したらGoogle Driveが使えなくなる」という単純な話ではありません。
ただし、商業出版された作品であることや、日本国内で合法な作品であることだけを理由に、Google側でも必ず保存が認められるとは限らない点には注意が必要です。
法律上の判断と、民間サービスの利用規約による判断は別だからです。
Google DriveだけでなくGmailまで使えなくなる可能性がある
クリエイターにとって特に厄介なのが、問題の範囲がGoogle Driveだけにとどまらないことです。
Google公式ヘルプによると、ポリシー違反によって、
- 特定サービスのみ利用できなくなる
- Googleサービス全体へログインできなくなる
といった措置が取られる場合があります。
Googleアカウントを仕事に使っている場合、影響は想像以上に広がります
たとえば、
- Gmailでクライアントと連絡している
- Google Driveに納品データを保管している
- Googleドキュメントで原稿を管理している
- Googleカレンダーで予定を管理している
- 「Googleでログイン」を各サービスで利用している
といった使い方をしていると、一つのアカウントに仕事環境が集中します。
原稿データを失うことも問題ですが、メールアドレスや認証手段まで同時に失う方が仕事への影響は大きくなる場合があります。
Googleのヘルプでは、アカウント停止後も一部データをダウンロードできる場合があるとしています。ただし、児童性的虐待など特定の重大な違反では、データをダウンロードできない場合もあると説明されています。
「停止された後にGoogle Takeoutで回収すればいい」とも言い切れません。
なぜ非公開のファイルまで問題になるのか
今回の事例で戸惑いやすいのは、WebサイトやSNSへ公開した作品ではなく、クラウドへ保管したデータだった点です。
Google Driveのポリシーでは、Drive上のコンテンツについて規約違反の確認を行い、コンテンツへのアクセス制限、削除、Google製品へのアクセス制限や停止などの措置を取る場合があるとしています。
つまり、「誰にも共有していないから規約の対象外」とは考えない方がいいでしょう。
クラウドストレージは、ネット上へ公開するためのサービスとは限りませんが、保存したファイルがサービス提供会社のポリシーから完全に切り離されるわけでもありません。
この感覚のズレが、今回の問題でクリエイター側が特に注意したい部分です。
「暗号化されているクラウドなら安心」とも限らない
クラウドストレージでは「暗号化」という言葉をよく見かけます。
ただし、暗号化されているからサービス提供会社にもファイルの内容が一切見えない、という意味とは限りません。
今回の講演では、暗号化の方式によって、サービス提供会社が暗号化に使う鍵を管理する場合と、ユーザーだけが鍵を持つE2EE(エンドツーエンド暗号化)があることも説明されています。
E2EEとは、データを送る側と受け取る側だけが内容を読み取れるようにする暗号化方式です。サービス提供会社が復号用の鍵を持たない設計もあります。
「暗号化対応」という表記だけでは、どの方式なのかわからないこともあります。
作品データを長期保存するサービスを選ぶなら、容量や料金だけでなく、誰が暗号化の鍵を管理しているのかまで確認する価値があります。
漫画家・イラストレーターはバックアップを一つのクラウドに任せない
今回の件からすぐに取り入れられる対策は、Google Driveを使わないことではありません。
大切なのは、Google Driveだけに作品を置かないことです。
作品データを守るなら、たとえば次のように保存先を分けられます。
- 制作中のPC
- 外付けSSDやHDD
- クラウドストレージ
- 必要に応じて別の場所へ置いたバックアップ
データ保護では「3-2-1バックアップ」という考え方もよく使われます。
データを3つ持ち、2種類以上の異なる媒体へ保存し、そのうち1つを別の場所に置くという方法です。
クラウドサービスのアカウント停止だけでなく、PCの故障、SSDの故障、誤削除、ランサムウェア、災害などにも備えられます。
特に仕事として漫画やイラストを制作している場合、クラウドは「原稿の唯一の保管場所」ではなく、複数あるバックアップ先の一つとして扱う方が安全です。
GmailやGoogleログインへの依存も確認しておきたい
もう一つ確認しておきたいのが、Googleアカウントへの依存度です。
普段何気なく使っている「Googleでログイン」が増えている場合、一つのアカウントへアクセスできなくなっただけで、多くのサービスへ入れなくなる可能性があります。
一度、
- 仕事のメールをGoogleアカウントだけに依存していないか
- 重要サービスのログイン方法がGoogleログインだけになっていないか
- 二段階認証のバックアップコードを保存しているか
- 原稿の唯一のバックアップがGoogle Driveになっていないか
- 古い作品までクラウドへまとめて置いていないか
を確認しておくといいでしょう。
これは成人向け作品や漫画を描く人だけの話でもありません。
Googleのポリシーによるアカウント停止以外にも、アカウントの乗っ取り、認証トラブル、サービス障害など、クラウドへアクセスできなくなる理由はいくつもあります。
今回の事例は「Google Driveが危険」という話として終わらせるより、クリエイターが作品と仕事環境を一社のアカウントへ集約しすぎていないかを見直す機会として捉えた方が役立ちそうです。
便利なクラウドだからこそ、消えたときに困らない使い方までセットで考えておきたいところです。