無料で使えるクリエイティブソフト「Affinity」に、60以上の新機能・改善を含む大型アップデートが入りました。
今回の目玉は、ベクターデザインで使える新しいブレンドツール、反復作業を自動化できるアプリ内スクリプト、写真編集機能の強化。そしてDTPや装丁をしている人にとって見逃せないのが、Adobe InDesignの「INDD」ファイルをAffinityへ直接取り込めるようになったことです。
Affinityは2026年9月15日にアップデート内容を発表。個人利用では引き続き、主要なベクター・画像編集・ページレイアウト機能を無料で利用できます。
InDesignの「INDD」をAffinityへ直接持っていけるように
今回の変更でまず押さえておきたいのが、INDDファイルのネイティブインポートです。
INDDはAdobe InDesignで作成したドキュメントの標準的なファイル形式。書籍、雑誌、パンフレット、カタログ、冊子などのDTP制作で使われています。
AffinityはこれまでもInDesignとのデータ交換手段としてIDMLを扱えましたが、INDDそのものを直接読み込む機能が加わりました。
IDMLは、InDesignの文書を他のバージョンやソフトウェアと交換しやすくするためのファイル形式です。 InDesignから別名保存・書き出しして受け渡すため、元データがINDDしかない場合はひと手間必要でした。
たとえば、昔InDesignで作った冊子のINDDしか残っていない。取引先からINDDでデータを受け取った。そんな場面で、Affinityへ持っていくためだけに一度IDMLへ変換する工程を減らせます。
ただし、「INDDが読める=InDesignを完全に置き換えられる」と考えるのは尚早です
複雑な組版、使用フォント、InDesign固有の機能、プラグインなどが絡むデータでは、読み込み後の再現状態を確認する必要があります。入稿データならなおさら、開けた時点で安心せず、文字組み、画像、リンク、カラー、裁ち落としなどをチェックしたほうがいいでしょう。
それでも、Affinity側からInDesignデータへ直接手を伸ばせるようになった意味は大きいです。
Affinityに待望の「ブレンドツール」

ベクター制作では、新しいブレンドツールが追加されました。
複数のオブジェクトの間へ中間形状を生成し、形や色などを段階的に変化させられる機能です。
たとえば丸と星形を置き、その間を少しずつ変形させる。異なる色のオブジェクトを並べ、色と形が連続して変化するグラフィックを作る。そんな表現に使えます。
ブレンドは、二つ以上のオブジェクトの間を補間して、中間となる形や色を自動的に作る機能です。 一個ずつ図形を複製して変形させなくても、連続した変化を作れます。
Affinity公式によると、ブレンドツールは以前からユーザーの要望が多かった機能でした。
しかも生成して終わりではなく、元となるオブジェクトをあとから変更できます。
ここはロゴ、タイポグラフィ、パターン制作あたりで遊び甲斐がありそうです
最初から完成形を決めて一個ずつ並べるより、ブレンドを作ってから形を触り、「この変化は面白い」と偶然を拾う使い方もできます。
曲線の「変なところ」を見つける機能も追加
ブレンドほど派手ではありませんが、ロゴや書体を作る人なら気になる追加もあります。
ペンツールやノードツールで、G2曲率の状態を視覚的に確認できるようになりました。
G2連続は、二つの曲線が接続する位置だけでなく、接線方向や曲率まで滑らかにつながった状態を指します。 ロゴや文字の輪郭など、曲線の品質が目立つデザインでは、不自然な膨らみや急な変化を探す手掛かりになります。
ベジェ曲線は、ノードをつないだから滑らかになるわけではありません。
拡大すると自然に見えても、少し離れて眺めると一部分だけ妙に膨らんでいることがあります。
ロゴのように何年も使われ、看板から名刺までさまざまなサイズへ展開されるデータでは、こうした曲線の精度が効いてきます。
派手な新機能より、こういう改善のほうが仕事ではありがたかったりします。
スクリプトで繰り返し作業をまとめて自動化

もう一つ大きいのがスクリプト機能です。
Affinityのアプリ内でスクリプトを書き、ベクター、ピクセル、レイアウトの作業へ一括実行できるようになりました。
同じ処理を何十ファイルにも繰り返すような仕事では、使い方次第で相当な時短になります。
たとえば
- 毎回同じ名前でレイヤーを作る
- 決まった処理を複数オブジェクトへ行う
- 制作データを一定のルールで整理する
手でやれば一回数秒でも、100回繰り返せば無視できない時間になります。
スクリプトは、その「毎回同じことをしている」部分を処理させるための仕組みです。
スクリプトは、ソフトウェア上で行う一連の操作や処理をプログラムとして記述し、自動実行する方法です。 大量のデータへ同じ処理を行う場合や、定型作業を繰り返す場合に向いています。
Affinity公式では、Claude用AIコネクターを使ったスクリプト作成支援についても案内しています。
ただ、スクリプト機能の価値そのものはAIとは別です。
コードを書ける人なら自分の制作フローに合わせて処理を組めますし、チームで同じスクリプトを共有すれば、単純作業だけでなく作業ルールの統一にも使えます。
写真編集は「Affinity史上最大規模」の更新

写真編集側も大きく変わっています。
Affinityは今回のアップデートを、同ソフト史上最大規模の写真編集機能アップデートと説明しています。
RAW現像が強化され、カラー、シャープネス、ディテールに関する9種類の新しい調整機能が追加。現像設定をプリセットとして保存し、別の写真でも再利用できるようになりました。
RAWは、カメラのセンサーが記録した情報を、JPEGなどへ完成させる前の状態に近い形で保持する画像データです。 撮影後に明るさや色などを調整できる幅が広く、写真を仕上げる工程で使われます。
撮影した100枚を一枚ずつゼロから調整するのではなく、まず一枚で方向を決め、その設定を撮影全体へ展開する。仕事で大量の写真を扱うなら、プリセットの再利用は重要です。
混合照明や手ぶれの補正にも新しい処理が加わっています。
一枚になってしまった画像を再編集する「シーン分解」
画像編集では「シーン分解」という機能も追加されました。
Affinity公式は、これまで作り直したり諦めたりしていた「平坦なアセット」を、再加工できる形へ変える用途を挙げています。
平坦な画像とは、ざっくり言えばレイヤー情報が残っていない一枚の画像です。
制作中のPSDやAffinityデータなら、「人物」「背景」「文字」のようにレイヤーを分けて編集できます。
ところがJPEGや統合済みの画像しか残っていなければ、個別に動かすことはできません。
シーン分解は、そうした画像を再び扱いやすい状態へ持っていくための機能です。
昔作った画像の元データがない、クライアントから統合済み素材しか届かなかった、といった場面は珍しくありません。
精度次第ではありますが、「元データがないから最初から作り直す」以外の選択肢が増えるのは助かります。
Canva Brand Systemとの同期も進む

Affinity単体の機能だけでなく、Canvaとの接続も深まっています。
Canva Brand Systemとリアルタイム同期し、承認済みの色、フォント、画像などをAffinity側から利用できます。
さらにAffinityで作ったデザインをモーショングラフィックスツール「Cavalry」へ直接読み込む連携も進められています。
ここから見えるのは、CanvaがAffinityを「Canvaの高機能版」にするだけではなく、プロ向け制作環境の入口として育てようとしていることです。
- Affinityで精密にデザインし、
- Cavalryで動かし、
- Canva側でチーム展開する。
それぞれ別だった道具の間をつなごうとしています。
個人利用なら主要機能は無料のまま
これだけ機能が増えると料金変更も気になりますが、Affinityの主要機能は個人利用なら引き続き無料です。
Affinity公式サイトでは、ピクセル、ベクター、レイアウトの各Studioに加え、カスタマイズやエクスポート機能も料金なしで利用できると案内しています。
Canva AI StudioなどのAI機能をAffinity内で利用する場合は、Canvaのプレミアムプランが必要です。
つまり、
- ベクターデザイン
- 画像編集
- ページレイアウト
- ブレンドツール
- スクリプトなど今回追加された主要制作機能
を使いたいだけなら、まず無料版から試せます。
Photoshop、Illustrator、InDesignのように用途ごとにアプリを切り替える方式とも違い、Affinityではピクセル、ベクター、レイアウトを一つのアプリ内で扱います。
イラストを描いて、そのまま冊子へレイアウトする。写真を補正して、その場でベクター素材を作る。そうした作業を一つのドキュメント内で行えるのが現在のAffinityです。
「無料だから使うソフト」から変わりつつある
Affinityが無料になったとき、「Adobeにお金を払いたくない人向け」という見方をした人も多かったと思います。
もちろん価格は大きな魅力です。でも今回のアップデートを見ると、それだけで判断するのは少しもったいなくなってきました。
- ブレンド
- スクリプト
- 曲線精度の確認
- RAW現像
- INDDインポート
どれも「無料ソフトとして最低限そろえる」ための機能ではありません。
むしろ、すでに仕事で制作ソフトを使っている人が困っている部分へ入り始めています。
特にINDDを直接取り込めるようになったことで、InDesignで蓄積してきた過去データがある人にとっても、Affinityを試すハードルは一段下がりました。
だからといって、明日からAdobe環境を全部捨てられるという話ではありません。印刷会社や取引先とのデータ交換、プラグイン、既存の制作フローまで含めれば、ソフトは機能表だけでは決められません。
ただ、「無料だから試してみる」には、もう十分すぎるところまで来ています。
Affinityの2026年9月アップデートは現在提供中。WindowsとmacOSで利用でき、iPad版については公式サイトで開発中と案内されています。
関連リンク
Affinity|2026年9月アップデート公式発表
Affinity|公式サイト
Affinity|RAW現像・写真編集アップデート詳細
Canva|Canva ProSuite発表