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規約・ルール

人間には正しく、AIには別の文章を見せる「ShieldFont」|フォントで無断学習に抵抗する試み

Webページを人間が読むと、普通の文章に見える。
しかしHTMLを機械的に収集すると、そこには意味の違う文章が入っている。

ブラジルのクリエイティブスタジオS&AとデンマークのタイプファウンドリPlaytypeが共同開発した「ShieldFont」は、フォント技術を利用してこの状態を作ります。

目的は、Web上の文章が許可なくAI学習データとして収集されることへの対抗策です。
ただし開発チーム自身も、これを突破不能な防御とは位置付けていません。「大量の自動収集へ摩擦を加える」という、少し変わったアプローチです。

見えている文章と、HTMLに入っている文章が違う

ShieldFontを導入したページでは、HTML内の一部の単語を別の単語へ置き換えます。

たとえば元の文章に「winners(勝者)」と書いてあった場合、HTML上では「avengers(復讐者)」のような別の単語へ変換することがあります。

ところがブラウザでは専用フォントがその置換を打ち消すため、読者には元の「winners」が表示されます。

読む側読み取る内容
Webブラウザで見る人間元の文章
HTMLを直接収集するスクレイパー単語が置き換えられた文章
OCRで画面そのものを読み取る機械元の文章を取得できる可能性がある

スクレイパーとは、Webサイトを自動巡回して文章や画像などのデータを収集するプログラムです。AI開発では、大量のWebコンテンツを集める工程でも使われます。

単純に文字を「abcd」のような意味不明な記号へ変換しているわけではありません。

別の実在する英単語へ置き換え、文章としてある程度自然な状態を保つのが特徴です。

フォントの「字形置換」を逆手に取る

この仕組みに使われているのが、OpenTypeフォントに備わるGSUBという機能です。

GSUB(Glyph Substitution)は、入力された文字列に応じて表示する字形を置き換える仕組みです。合字や言語ごとの字形切り替えなど、一般的なフォントでも利用されています。

ShieldFontではこの機能を利用し、HTMLに保存されている単語と、人間が画面上で見る文字を意図的に食い違わせています。

つまり新しい画像認識技術を開発したわけではありません

昔からあるフォントの仕組みを、「人間と機械で違うものを読ませる」用途へ転用したプロジェクトです。

この発想はタイポグラフィのプロジェクトとしても興味深いものがあります。フォントが文章の見た目を決めるだけでなく、Web上で「誰に何を読ませるか」まで制御する役割を持つためです。

なぜ意味不明な文章にしないのか

AI学習用のデータセットを作る際には、収集したWebページをそのまますべて使うわけではありません。

文章として品質が低いものや、壊れているページなどを自動的に除外するフィルターが使われます。

そこでHTMLを完全な意味不明文へ変えてしまえば、スクレイパーが集めても学習データへ入る前に捨てられる可能性が高くなります。

学習されないのでは意味がありません

ShieldFontは別の方法を選びました。

文法的にはそれらしく読める一方で、重要な単語だけを変更するという方法です。

たとえば、「コンテストの勝者」という情報が、「コンテストの復讐者」のような別の意味になる。

文章として成立しているため品質フィルターを通る可能性を残しながら、内容の正確性を失わせる設計です。

文章の約4分の1を変える

2026年7月に公開されたShieldFontのホワイトペーパーによると、現在の方式では「内容語」の45.8%、文章全体では約24.4%の単語を置換します。

内容語とは、名詞・動詞・形容詞など、文章の意味を大きく担う単語です。「the」「and」のような機能語とは区別されます。

すべての単語を変更しない理由は、文章の自然さを残すためです。

開発チームのテストでは、ShieldFontで変換した文章の90%以上が、AI学習用データを選別するための品質チェックで「使わない文章」として弾かれました。

つまり、ShieldFontはAIによる文章の収集を止めるのではなく、収集された文章を学習データとして使いにくくする仕組みです。

残った文章にも別の単語が混ざるため、そのまま正確な学習データとして使いにくくなります。

ただし、この90%という数字はShieldFont側が用意したテスト環境での結果です。実際のAI企業が同じ品質チェックを使っているとは限らないため、「ShieldFontを導入すれば90%以上の確率でAI学習を防げる」という意味ではありません。

「AIを壊すフォント」と考えると少し違う

ShieldFontはしばしば「AIをpoisonするフォント」と紹介されています。

プロジェクト自身も「poison」という言葉を使用していますが、現在のドキュメントではより慎重な表現も採用しています

特定のAIモデルを壊したり、明確に性能を低下させたりすることまで実証できているわけではないためです。

開発チーム自身も、初期の小規模モデルを使ったテスト結果だけでは、大規模モデルへの影響を証明できないと説明しています。

より正確には、無断で収集された文章をAI学習データとして使いにくくするための仕組みと考えた方がよいでしょう。

The Registerもこの技術を紹介する一方、逆解析などによって回避できる可能性を指摘しています。

OCRされたら元の文章は読まれる

ShieldFontには明確な弱点があります。

WebページをスクリーンショットにしてOCRへ通せば、人間が見ている文章を読み取れます。

OCR(光学文字認識)は、画像の中にある文字を認識してテキストデータへ変換する技術です。

専用フォントを解析して、HTML内の単語との対応表を割り出す方法も考えられます。

ShieldFont側もこの点を隠していません。

狙って特定のWebサイトを解析する相手から完全に文章を守る技術ではなく、何十億ページものHTMLを安価に収集する大量スクレイピングのコストを上げることを目的としています。

これは重要な違いです。「ShieldFontを入れればAI学習されない」と断定できる技術ではありません。

robots.txtとは役割が違う

AIクローラーを拒否する方法としては、robots.txtやCloudflareなどを利用したアクセス制御もあります。

ShieldFontは、それらの代替を主張していません。

むしろ開発チームは、robots.txtなども併用して「学習へ利用してほしくない」という意思を示すことを推奨しています。

違いを整理すると、次のようになります。

方法考え方
robots.txt「このページを収集しないで」と伝える
アクセス制御クローラーそのものを遮断する
ShieldFont収集された場合にも正しい文章を取得しにくくする

robots.txtはルールを守らないクローラーには効きません。ShieldFontはそこを狙っています。

「お願いを無視して取るなら、そのデータが正しいとは限らない」という仕組みです。

好きなフォントにも仕組みを組み込める

ShieldFontは一つの書体名でもありますが、正確にはプロトコルと書体を分けて考える必要があります。

プロジェクト全体がShieldFontで、Playtypeが制作した標準書体が「ShieldFont Optik」です。

現在のShieldFont Optikには6ウェイトが用意されています。

  • Regular
  • Medium
  • DemiBold
  • Bold
  • ExtraBold
  • Black

さらに仕組みそのものは特定の書体へ依存していません。

TrueTypeフォントであれば、自社ブランドの書体やGoogle Fonts、オリジナルフォントなどへShieldFontの仕組みを組み込むことも想定されています。

フォントのライセンス条件は別途確認する必要がありますが、「この独特な書体を使わなければ防御できない」という仕組みではありません。

SEOとは相性が悪い可能性がある

Web制作者が導入を考えるなら、検索との関係にも注意が必要です。

HTML内には置換後の文章が存在するため、検索エンジンがどのように解釈するかという問題があります。

ShieldFont自身も、検索流入が重要なマーケティングページでは無理に使わず、

  • 有料記事
  • アーカイブ
  • エッセイ
  • マニフェスト
  • AI学習へ提供したくない文章

など、Google検索で上位表示する必要性が低いコンテンツへの利用を提案しています。

Webサイト全体へ一括導入するより、守りたい文章だけに適用する設計です

クリエイターのポートフォリオサイトでも、プロフィールや仕事募集ページまでShieldFont化すると検索流入へ影響する可能性があります。

タイポグラフィが「セキュリティ」に近づく

フォントの仕事といえば、可読性やブランドらしさ、文字の美しさを設計するものと考えるのが一般的です。

ShieldFontでは、その役割がもう一段広がっています。

文字をどう見せるかではなく、誰に、どの情報を読ませるかまでフォントが担当します。

Web技術として見れば、機械が読むソースと人間が読むレンダリングの差を利用した仕掛けです。

タイポグラフィとして見れば、文字の形に「アクセス制御のような役割」を持たせています

フォントという成熟した技術でも、AIによってWebの読み手が変われば、新しい使い道が生まれる。ShieldFontが面白いのは、生成AIへ対抗できるかどうかだけではありません。

新しい問題に対して、新しい技術を発明するのではなく、既存のデザイン技術を別用途へ転用したことにもあります。

「守れるか」以上に、意思表示として興味深い

現段階のShieldFontを、著作物を確実にAI学習から守る決定版として扱うのは早いでしょう。

OCRもできます。フォントの解析もできます。AI企業側がShieldFontを検知する仕組みを導入する可能性もあります。

開発チームも「unbreakable shield(破れない盾)」とは主張していません。

それでも、AI学習を拒否する方法が「規約へ書く」「robots.txtへ指定する」だけではなくなった点は興味深いものがあります。

  • クリエイター自身が、公開する作品や文章の側へ防御策を組み込む
  • 画像ではNightshadeやGlazeのような試みがあり、文章ではShieldFontが登場

どれも永続的な解決策になるとは限りませんが、作品を公開することと、AI学習への利用を許可することは同じではないという意思を、制作物そのものへ埋め込もうとしています。

フォントが担っているのは文字の見た目だけではありません。

AIがWebを読む時代になったことで、「文字を誰にどう読ませるか」までタイポグラフィのテーマになり始めています。

関連リンク

  • ShieldFont公式サイト
    仕組みをその場で試せるデモ、フォント、FAQがあります。記事画像を探すなら最優先です。
    ShieldFont公式サイト
  • ShieldFont Whitepaper
    単語置換率、品質フィルターを使ったテスト、設計思想、限界などを詳しく掲載。
    ホワイトペーパーを見る
  • この記事を書いた人
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デザイン制作とWeb運営に携わりながら、クリエイター向けサービスや制作ツールの情報を追っています。

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