YouTubeチャンネルのAdSense収益やSpotifyから入るロイヤリティを、「将来入ってくるお金」として評価し、まとまった資金を先に受け取る。
そんなクリエイター向け金融を展開する米CreatorFiが、2026年9月2日に4500万ドルの資金調達を発表しました。
CreatorFiが対象にしているのはYouTuberだけではありません。音楽アーティスト、レーベル、ゲームスタジオなど、デジタルプラットフォームから継続的な収益を得る事業者まで含まれます。
銀行から借りるための不動産も、会社の株式を渡す相手も必要ない。代わりに評価されるのは、YouTube AdSense、Spotifyのロイヤリティ、TikTok Shopの売上、Robloxなどから今後入ってくる収益です。
「人気クリエイターに投資する」という話だけなら珍しくありません。CreatorFiで面白いのは、フォロワーや知名度ではなく、クリエイターが生み出す継続収益そのものを金融資産のように扱おうとしていることです。
CreatorFiが4500万ドルを調達
今回の発表内容を整理すると、次の通りです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発表日 | 2026年9月2日 |
| 調達額 | 4500万ドル |
| 調達方法 | 株式+デットファイナンス |
| 追加余力 | 最大1億ドル |
| 株式側の主導 | Escape Velocity(EV3) |
| デット側の主導 | VerisFi Capital |
| 主な対象 | YouTuber、音楽アーティスト、レーベル、ゲームスタジオなど |
| 評価対象となる収益 | YouTube AdSense、Spotify、TikTok Shop、Robloxなど |
| 主な用途 | 新規IP制作、IP取得、広告・ユーザー獲得、チーム拡大など |
CreatorFiによると、今回調達した資金はクリエイターやメディア事業者が既存IPを取得したり、新しい作品を制作したり、広告や人材へ投資したりするための資金として使われます。
2025年にも1200万ドルのクレジットファシリティを調達しており、今回はそれを上回る規模です。
CreatorFiは何をしている会社?
CreatorFiを一言で表すなら、これから入ってくるクリエイター収益を、先にまとまった資金へ変えるサービスです。
たとえば、YouTubeチャンネルが毎月安定してAdSense収益を生んでいるとします。
その収益を毎月受け取りながら制作費を貯める代わりに、CreatorFiが収益履歴などを分析し、将来の収益をもとに資金を先出しします。
CreatorFiの個人クリエイター向けサービスでは、YouTubeの場合、将来6〜24か月分のAdSense収益を前倒しする仕組みを案内しています。
受け取った資金の使途として想定されているのは、撮影設備の購入だけではありません。編集者やライター、マネージャーを雇ったり、投稿本数を増やしたり、広告へ投資したりと、チャンネルを事業として拡大するために使えます。
収益が増えるまで待ってから投資するのではなく、すでに作れている収益力を使って次の成長を先に買う考え方です。
毎月決まった額を返す一般的なローンとは違う
CreatorFi自身は、個人クリエイター向けの仕組みを従来型の借金とは異なる「advance」と説明しています。
返済額は固定ではなく、CreatorFiが将来の収益から一定割合を自動的に受け取ります。収入が増えた月は返済も増え、収入が落ちれば返済額も下がる仕組みです。個人保証や法人保証も要求しないとしています。
CreatorFi公式サイトが示している基本構造は次の通りです。
| 一般的な借入との違い | CreatorFi |
|---|---|
| 固定月額の返済 | なし |
| 返済方法 | プラットフォーム収益から自動 |
| 収益が落ちた場合 | 返済額も連動して変動 |
| 株式の譲渡 | なし |
| チャンネル所有権の譲渡 | なし |
| 音楽カタログの所有権譲渡 | なし |
| 個人保証 | 原則なし |
ただし、CreatorFiは複数の金融商品を扱っており、案件によって契約条件は異なります。
Business Insiderが今回報じた大型案件では、50万ドルから500万ドル程度を提供し、プラットフォーム収益の一定割合をCreatorFiが受け取る契約が中心です。報道によると、その割合は50%程度になるケースが多く、新しい楽曲など一定のIPを期限までに制作する条件が加わることもあります。
つまり、公式サイトに掲載されている一般YouTuber向けの資金前払いサービスと、数百万ドル規模のメディア事業者向け案件は同じ条件ではありません。
「CreatorFiなら誰でも500万ドル借りられる」という意味ではないので、ここは分けて考える必要があります。
株式も既存IPも売らなくていい
CreatorFiが繰り返し強調しているのが、会社やコンテンツの所有権を渡さなくていい点です。
スタートアップが大きな資金を集める場合、投資家へ株式を渡す方法があります。
音楽なら、将来のロイヤリティと引き換えに楽曲カタログの権利を売却する方法もあります。YouTube分野でも、動画の過去収益をもとにまとまった資金を提供する企業があります。
CreatorFiは、その中間に近い位置を狙っています。
会社そのものを売らず、既存の音楽カタログやYouTubeチャンネルも手放さず、そこから生まれるキャッシュフローをもとに資金を出します。CreatorFiは音楽分野についても、カタログの権利を取得する方式ではないとしています。
クリエイター側から見ると、「今まとまったお金が必要だから、過去に作った作品の権利を売る」という選択を避けられるわけです
もちろん無料でお金を受け取れるわけではなく、将来収益の一部はCreatorFiへの支払いに回ります。所有権を残せることと、資金調達コストがないことは別です。
YouTuberなら何を見て融資額を決める?
CreatorFiのYouTube向けサービスでは、単純な登録者数だけで判断しません。
主な評価項目として、次の情報を挙げています。
- AdSenseの収益履歴
- エンゲージメント
- 著作権ストライクの有無
- チャンネル全体の健全性
- 過去にCreatorFiを利用した場合は返済履歴
CreatorFi公式サイトでは、通常のYouTube向けプログラムについて月額2500ドル以上のAdSense収益をひとつの基準として掲載しています。
Business Insiderの取材でも、CreatorFiはまずプラットフォームからどれだけ収益が発生しているかを確認し、そのうえでファンのエンゲージメントやIPの強さを評価すると説明しています。
ここで興味深いのが、同社CEOのBilly Huang氏が「大きなクリエイターである必要はない」という趣旨の説明をしていることです。
CreatorFiが重視するのは、熱量の高いファンを持っているかどうか。単純なフォロワー数より、「この人が商品を出したら買う」「新しい動画が出たら見る」という関係の強さを評価しています。
フォロワーではなく「キャッシュフロー」が信用になる
これまでクリエイターの価値は、フォロワー数や再生数で語られる場面が多くありました。
広告を出すブランドから見れば、それで十分です。100万人へ届く人なら広告価値が高い、と判断できます。
金融機関の見方は違います。
必要なのは「この人が人気か」ではなく、これからいくら入金され、その状態がどの程度続きそうかです。
CreatorFiはYouTubeやSpotify、Roblox、TikTok Shopなどのプラットフォーム収益を分析し、IPやファンとの関係まで含めて資金提供の可否を判断します。
これは、クリエイターエコノミーが広告市場から金融市場へ入り始めていることを意味します。
投資家のEscape Velocityは今回、こうしたクリエイターIPのキャッシュフローを「IP credit」という新しい資産クラスとして制度化することを目指すと説明しています。
会社には売上があり、不動産には賃料があり、債券には利息があります。
クリエイターにもYouTube AdSense、サブスクリプション、音楽配信、ゲーム内課金など、繰り返し入ってくる収益があります。
それなら、その将来収益も資金調達の根拠として扱えるのではないか、という発想です。
TikTok Shopの商品在庫まで資金調達できる
CreatorFiはさらに、物販を行うクリエイター向けの在庫ファイナンスも展開しています。
この仕組みではCreatorFiが製造業者へ直接資金を払い、商品が販売された後の売上から返済します。YouTube、TikTok、Instagram、音楽、ゲームなどで継続的な活動実績を持つクリエイターが対象です。
在庫ファイナンスでは、フォロワー数よりも購入率や売上履歴を重視すると明記しています。
クリエイターが商品ブランドを始めようとすると、販売する前に製造費が必要です。1000個作ってから売るなら、その1000個分を先に支払わなければなりません。
ファンはいる。買いたい人もいる。それでも現金がないから商品を作れない。
CreatorFiは、そこへ資金を入れます。
これはクリエイターを「広告を投稿して報酬を受け取る人」ではなく、自分で商品やIPを持つ事業者として見ていることが分かりやすいサービスです。
CreatorFiが投資しているのは「人」だけではない
CreatorFiがこれまで支援してきた対象には、YouTuberのLah MikeやThe Danza Projectのほか、音楽レーベルCoasthill IV、ゲーム企業Mythical Gamesなどがあります。
公式発表でも、対象としてクリエイターだけでなく、ディストリビューター、タレントマネージャー、レコードレーベル、ゲームスタジオを挙げています。
CreatorFiという名前から個人インフルエンサー向けローンを想像すると、現在の事業はそれより広めです
- YouTubeチャンネルがテレビ番組になる
- アーティストが自分でレーベルを作る
- ゲームクリエイターが出版社からIPを買い戻す
CreatorFiは、こうしたクリエイター発の事業が次の段階へ進むときの資金を狙っています。
「クリエイターだから融資を受けにくい」が変わるかもしれない
クリエイターの収益は、会社員の給与とは性質が違います。
今月100万円入っても、来月も同じ額になるとは限りません。収益源も広告、プラットフォーム報酬、案件、商品販売、サブスクリプションなどへ分散します。
一般的な金融機関から見ると、評価しづらい収益構造です
一方、YouTubeを何年も運営していれば膨大な履歴が残っています。
再生数、広告収益、投稿頻度、登録者、エンゲージメント、著作権違反、収益の増減まで、数字で追えます。
CreatorFiは、そのデータを信用評価へ使います。
ここはクリエイターエコノミーと金融の相性が意外といい部分です
収入は不安定に見えても、プラットフォーム上には判断材料が大量に残っています。
銀行口座だけを見るより、YouTubeチャンネルを見た方がその人の将来収益を予測しやすいケースすらありそうです。
もちろん、先に使えば将来の取り分は減る
便利に見える一方、注意したいのは「将来のお金を早く受け取っている」点です。
先に資金を得れば、その後に入ってくるプラットフォーム収益の一部はCreatorFiへの支払いに使われます。
新しい設備や人材へ投資した結果、収益が伸びれば意味があります。
反対に、先にもらった資金を使ったものの収益が伸びなければ、その後しばらく使えるキャッシュフローが減ります。
大型案件ではBusiness Insiderが、プラットフォーム収益の50%程度をCreatorFiが受け取るケースが多いと報じています。
金額だけを見るのではなく、「何か月分の収益を前倒しするのか」「最終的にどれだけ支払うのか」「新規IP制作などの条件が付くのか」まで確認する必要があります。
日本からそのまま利用できる一般的な資金調達サービスとして紹介する段階でもありません。
今回注目したいのはCreatorFiをおすすめできるかどうかより、クリエイターの収益そのものが金融商品の評価対象になり始めたことです。
「クリエイター」は職業名から事業モデルへ
少し前まで、クリエイターエコノミーのニュースといえば、YouTubeの収益化条件や企業案件、投げ銭、サブスクリプションなど「どう稼ぐか」が中心でした。
CreatorFiが扱っているのは、その次です。すでに稼げるようになったクリエイターが、その収益を使ってどう事業を広げるか。
個人で動画を作るところから、編集者を雇う。商品を作る。IPを取得する。レーベルを作る。ゲームを開発する。
その段階へ進むと、必要になるのは制作ツールだけではありません。資金調達まで必要になります。
CreatorFiの4500万ドル調達は、クリエイター向け金融サービスがひとつ大きくなったというだけのニュースではありません。
フォロワーを持つ人を「インフルエンサー」として見るだけでなく、継続収益を生むIP事業として評価する市場が育ち始めている。
クリエイターエコノミーが成熟してきたことを、かなり分かりやすく示す動きです。