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紙箱は「包むもの」から「残したくなるもの」へ|11組のクリエイターが挑むHAKOMART 2026

商品を取り出した後、その箱を捨てるか残すか。

紙箱メーカーのモリタが8年ぶりに開催する「HAKOMART 2026」では、この何気ない判断そのものがデザインのテーマになっています。

11組のクリエイターが「のこす」をテーマに、紙箱の加工技術とそれぞれの表現を組み合わせた作品を制作。東京・千駄ヶ谷のTHINK OF THINGSで9月17日から展示・販売が始まりました。

箱を豪華に装飾する企画ではありません。今回の展示から見えてくるのは、紙箱を「中身を守るための資材」から「箱そのものを残したくなるプロダクト」へ変えるには何が必要かという問いです。

11組に与えられたのは「紙箱」と「のこす」というテーマ

HAKOMARTは、札幌で1932年に創業した紙器メーカー・モリタが手がけるプロジェクトです。

紙箱の製造技術とクリエイターの発想を組み合わせる試みとして2012〜2018年に札幌や東京で開催され、2026年に8年ぶりに復活しました。

参加するのは、グラフィックデザイナー、Webデザイナー、イラストレーターなど11組です。

今回のテーマは「のこす」

「未来に残したいもの」「記憶に残るもの」「手元に置き続けたいもの」といった解釈を、それぞれが紙箱という立体へ落とし込みます。

項目HAKOMART 2026
テーマのこす
参加11組
素材・形式紙箱
東京会期2026年9月17日〜29日
東京会場THINK OF THINGS
札幌会期2026年10月8日〜11月4日
主催モリタ株式会社

制約として見ると、かなり厳しい企画です。

ポスターなら平面を自由に使えます。Webなら動きやインタラクションも加えられます。しかし箱には、蓋、底、角、厚み、開閉といった構造が最初からあります。

その制約を避けるのではなく、表現そのものとして利用するのがHAKOMARTです。

KANAISASAKIは「箱を守る箱」を作った

公開されている作品のひとつが、KANAISASAKIによる「Four boxes for a box(箱が角を守る箱)」です。

名前の通り、箱の四隅を別の箱が守るような構成になっています。

通常、箱は中身を守るために存在します。

この作品では、その関係が反転しています。守る側だった箱そのものを、さらに別の箱が守る。

「箱とは何のためにあるのか」という機能を少しずらすだけで、包装資材だったものが作品として見えてきます。

紙の色やグラフィックだけをデザインするのではなく、箱が持っている役割そのものをデザインの材料として扱っている点が面白いところです。

箱のデザインは「六面にグラフィックを置く仕事」ではない

パッケージデザインというと、展開図の上へロゴやイラストを配置する作業を思い浮かべることがあります。

しかし、箱には平面デザインにはない要素があります。

  • 開ける
  • 閉じる
  • 重ねる
  • 中へ入れる
  • 外から守る
  • 積む
  • 収納する
  • 持ち運ぶ

こうした動作も含めてデザインできます。

つまり、箱を作るときには「何を印刷するか」だけでなく、人がその箱とどう関わるかまで設計対象になります。

同じグラフィックでも、蓋を開けた瞬間に現れるのか、外から常に見えるのかでは意味が変わります。箱を積んだときだけ絵が完成する仕掛けも作れます。

紙箱は、平面と立体の中間にある媒体とも言えます。

「捨てられない箱」は、何が違うのか

スマートフォンや菓子、アクセサリー、本、香水などを買った後、なぜか箱だけ取っておくことがあります。

用途が決まっているわけではない。それでも捨てるのが惜しい。

そこには商品の中身とは別の価値が生まれています。

箱を残す理由として考えられるものを整理すると、単純な高級感だけではありません。

残したくなる理由デザインで関係する要素
見た目が好きグラフィック、色、印刷
触り心地がいい紙、表面加工
作りが面白い構造、開閉方法
再利用できるサイズ、強度
思い出がある商品・イベントとの関係
集めたくなるシリーズ設計
捨てるのが惜しい加工、素材、完成度

モリタは今回の企画について、紙箱を単なる輸送・保管資材ではなく、「手触り」「構造」「デザイン」を通して人の感情や記憶を残す存在として捉えています。

包装を商品から切り離して考えない発想です

ペーパーレスの時代だから、紙は「情報を載せるだけ」では弱くなる

紙の役割は以前と変わっています。

資料や請求書、説明書など、情報を伝えるだけならデジタルへ置き換えられる場面が増えました。

その一方で、触感や厚み、折り、開閉など、物理的な性質は画面へ移せません。

紙を使うなら、「なぜ紙なのか」まで含めて設計する必要があります。

HAKOMARTが扱う箱も同じです。

中の商品を安全に配送するだけなら、価格や強度を優先した包装で十分です。

しかし、商品を受け取った体験やブランドの記憶まで残したいなら、箱そのものにも役割が生まれます。

紙の価値を「印刷できる素材」だけに限定しない考え方です。

同人誌の箱にも、そのまま応用できる

これは商業パッケージだけの話ではありません。

同人誌や自主制作物でも、複数冊をまとめたセットや記念本、画集などでケースを作ることがあります。

よくあるのが、「豪華版だから箱を付ける」という発想です

しかし、箱が単なる収納ケースなら、制作費が増えただけにもなります。

作品との関係まで考えると別です。

たとえば

  • シリーズ3冊を収納したときだけ背面の絵が完成する
  • 箱を開くと作品世界の地図が現れる
  • ケースそのものを展示台として使える

といった設計もできます。

特殊加工を一つ追加するより、箱の構造に意味を持たせた方が印象に残る場合もあります。

「函文庫」は好きな包装紙を文庫サイズの箱にする

HAKOMARTに合わせ、THINK OF THINGSでは「函文庫」というワークショップも行われます。

A4以上の好きな包装紙やブックカバー紙を持参し、文庫本と同じサイズの紙箱へ仕立てます。

所要時間は20〜30分程度、参加費は2,200円です。会場側の包装紙も用意されています。

装丁が好きな人には、この発想も面白いでしょう

本そのものの表紙を変えるのではなく、本を入れる箱によって外観を変える。

好きな包装紙を使えば、市販されている普通の文庫本にも一点ものの外装を作れます。

函(はこ)は、本を収納・保護するためのケースです。上製本や全集、美術書などで使われ、装丁の一部としてデザインされることもあります。

箱と装丁の距離が近いことがよくわかる企画です。

加工技術は「見せてもらう」方が面白くなる

紙加工会社のWebサイトを見ると、さまざまな加工技術が紹介されています。

しかし、加工名称やスペックだけでは完成形を想像しにくいものです。

クリエイターと組んで作品にすると、「この加工を使うと、こんな見せ方ができるのか」と用途が先に見えてきます。

紙会社や印刷会社が展示を行う意味もここにあります。

自社設備の性能を説明するのではなく、クリエイターが限界まで遊んだ成果を見せることで、技術そのものが新しいアイデアの入口になります。

HAKOMARTはメーカー側にとっても、単なる作品展ではなく加工技術のショーケースとして機能しています。

制約があるから、アイデアの違いが見える

11組すべてが自由な作品を作った展覧会なら、比較する軸はありません。

今回は全員が「紙箱」を使います。

同じ素材と大まかな形式を共有しているからこそ、

  • 誰が形を変えたのか
  • 誰が開け方を使ったのか
  • 誰が紙そのものを見せたのか
  • 誰がグラフィックで解釈したのか

といった違いが見えやすくなります。

制作条件を揃えることで個性が消えるのではなく、むしろ判断の差が表面に出る。

イラストでも「同じテーマで10人が描く」企画が面白いのと同じです

自由度を上げれば個性が出るとは限りません。

制約を共有したとき、その制約をどう解釈するかに作家性が出ることもあります。

「紙箱」を作品にすることは、包装の価値を考え直すことでもある

商品制作では、どうしても中身が主役になります。

  • 同人誌なら本
  • アクセサリーならアクセサリー
  • 食品なら食品

箱は最後に予算を調整しながら決めるものになりがちです。

HAKOMARTでは、その優先順位を逆転させています。

箱を先に見ることで、普段は背景に回っている素材、構造、加工へ意識が向きます。

それは「全部の商品を豪華な箱へ入れよう」という話ではありません。

むしろ重要なのは、箱を付けるなら、その箱に何をさせるのかを考えることです。

  • 保護する
  • 驚かせる
  • 飾らせる
  • 収納させる
  • 記憶を残す
  • 作品の続きを見せる

目的が決まれば、必要な紙や加工も変わります。

HAKOMART 2026は紙箱の作品展ですが、装丁、同人誌、パッケージ、グッズ制作にもつながるヒントがあります。

何を印刷するかではなく、その紙を手にした人に何をしてほしいのか。

平面から少し離れて考えてみたいクリエイターには、面白い展示になりそうです。

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