モリサワが、Morisawa Fontsへ追加する2026年度新書体を発表しました。
提供開始は2026年10月14日14時で、和文ゴシック、明朝、筆書体、多言語書体など合計35ファミリーが加わります。
今年は「石井丸ゴシック」「本蘭明朝」をはじめとする写研書体が21ファミリーを占める一方、新作の「欅丸ゴシック Oldstyle」「ゆらら丸ゴ」なども登場します。昔から知られる書体を現在の制作環境へ戻す動きと、新しい表現を増やす動きが同時に進むアップデートです。
丸ゴシックだけでも性格の違う選択肢が増える

2026年度新書体で目立つのが、丸ゴシックの充実です。
新たに登場する「欅丸ゴシック Oldstyle」は、2023年にリリースされた「欅明朝 Oldstyle」「欅角ゴシック Oldstyle」と共通する金属活字由来の骨格を持ちながら、丸ゴシックらしい柔らかさを加えています。漢字だけでなく、伸びやかなかなも特徴です。
オールドスタイルは、過去の活字や書体設計の特徴を取り入れたデザインを指す言葉です。 単に古いフォントという意味ではなく、歴史的な文字の骨格や筆の動きなどを現在の書体へ取り込んでいる場合にも使われます。

同じ丸ゴシックでも、「ゆらら丸ゴ」は方向性が異なります。
こちらは角を柔らかく丸め、やや長体気味のすっきりしたプロポーションに、手書き風のかなを組み合わせた書体。ELからBまで5ウエイトが用意され、見出しだけでなく数行程度の文章にも使える設計です。
ウエイトは、フォントの線の太さの違いです。 同じ書体でも細いLight、標準的なRegular、太いBoldなど複数の太さを持つファミリーなら、本文から見出しまで統一感を保ちながら使い分けやすくなります。
「かわいいから丸ゴシック」と一括りにせず、活字らしい落ち着きを残したいのか、手書き感を出したいのかで選択肢を分けられるようになります。
「石井丸ゴシック」が現代環境向けに改刻

写研書体では「石井丸ゴシック」が加わります。
写研創業者の石井茂吉氏がデザインした書体で、引き締まった骨格と、手書きのニュアンスを残したかなの曲線が特徴です。今回のMorisawa Fonts版では、元のデザインを踏まえながら現在の制作環境へ合わせて調整した改刻フォントとして提供されます。
改刻フォントは、過去の活字や写植書体をそのまま画像化するのではなく、元の特徴を受け継ぎながら現在のデジタル環境で使えるフォントとして作り直したものです。 画面表示や現在の組版環境に合わせ、線やバランスなどへ調整が加えられることがあります。
従来の石井丸ゴシックは3ウエイトでしたが、今回は5ウエイトへ拡充。
2024年に改刻された「石井ゴシック」とウエイト展開が揃えられています
昔の書体を復刻する場合、「懐かしい見た目を再現できる」ことだけが価値ではありません。
ウエイトが揃えば、タイトル、見出し、キャプションなどを同じ書体の中で組み立てやすくなります。商業デザインで日常的に使えるところまで整備されることのほうが、長期的には大きいでしょう。
「ナール」はEL・Eだけから5ウエイトへ

写研を代表する丸ゴシック「ナール」にも変化があります。
2024年に「写研クラシックス」として提供されたEL・Eに加えて、2026年度版ではL・M・DBが追加されます。
ナールは文字を収める仮想ボディいっぱいに近い大きな字面と、広いふところを持つ書体です。
字面は、文字が占める見た目上の大きさです。ふところは、文字の線に囲まれた内側の空間を指します。 同じ文字サイズを指定しても、字面やふところの設計によって大きく見えたり、詰まって見えたりします。
これまでは細い側の選択肢が中心でしたが、MやDBまで揃うことで、見出しやタイトルにも使いやすくなります。
昭和・平成初期を意識したデザインだけでなく、あえて現在の写真やイラストと組み合わせる使い方も面白そうです。
本文用の「本蘭明朝」も7ウエイトで復活

装丁やエディトリアルデザインで気になるのが「本蘭明朝」です。
写植時代に本文用として作られた写研の明朝体で、今回はこちらも改刻フォントとしてMorisawa Fontsへ加わります。
モリサワによると、改刻では現在の表示環境を考慮してコントラストを調整。太めの横画、大ぶりなエレメント、広いふところによって、現在の画面でも判読しやすいよう整えられています。
コントラストは、書体の場合、縦画と横画など線の太さの差を指します。 明朝体では縦線を太く、横線を細くする設計が多く、この差の付け方によって文字の表情や画面上での見え方が変わります。
ウエイトは7種類。
本文向けとして生まれた書体ですが、細いものから太いものまで揃うため、本文だけでなく見出しまで同じファミリーで組めます。縦組・横組の両方を想定しているため、小説同人誌やZINE、書籍の本文書体を探している人にも確認しておきたい書体です。
「ゴナ」もL・M・DBを追加

写研の「ゴナ」もウエイトが拡張されます。
2024年に提供されたEに加えて、L・M・DBを追加。均一に近いストロークと整理されたプロポーションを持つモダンなゴシック体を、より広い太さから選べるようになります。
ナールとゴナは、日本のグラフィックデザインや広告、出版物の文字を見てきた人なら、名前を知らなくてもどこかでその雰囲気に触れている可能性があります。
過去のデザインを再現するときだけでなく、現在のレイアウトへ持ち込んだときにどう見えるか。
新しいフォントが増えるニュースでありながら、2026年度は日本の文字デザインの過去を現在の制作環境へ持ち込むアップデートという側面が強く出ています。
和風デザイン向けは「復刻系」から力強い筆文字まで

新書体には、和の表現を作るための書体も多く含まれています。
「こみなみ陳起」は、中国・南宋時代の書籍から復刻した漢字書体「陳起」と、津田三省堂の活字から復刻したかな書体「こみなみ」を組み合わせた宋朝体です。
宋朝体は、中国の宋代の刊本などにつながる特徴を持つ書体様式です。 日本で一般的な明朝体と似た部分もありますが、筆画の処理や骨格に独特の表情があります。

「くらもち銘石」「くろふね銘石」では、同じ漢字書体「銘石」へ異なるかなを組み合わせています。
漢字が同じでも、かなが変われば文章全体の空気は変わります。
和文フォントを見るときに漢字の形ばかり比較してしまいがちですが、装丁や本文組では、かなが連続したときの表情も重要です。
和風のタイトルを作りたい人には、さらに直接的な選択肢もあります。

「すすぐろ」は墨をたっぷり付けたような力強い筆書体。「飛泉」は鋭いはねやかすれを持ち、モリサワは看板、パッケージ、ゲーム映像、装丁などを用途として挙げています。
ほかにも「淡古印」「岩蔭太行書」「茅行草」、勘亭流の流れをくむ「ナーカン」「織田勘亭流」「けんじ特太勘亭」などが追加されます。
「和風フォント」で検索すると筆文字がまとめて同じカテゴリへ入れられがちですが、歴史的な出自も書き味も大きく違います。
時代物の同人誌、和菓子のパッケージ、飲食店のロゴ、ゲームのタイトルでは、同じ「和風」でも必要な雰囲気は別です。選択肢が増えたぶん、どの時代・どの文化を感じさせたいのかまで考えて選びたいところです。
Select8では写研フォント21ファミリーを選べない
Morisawa Fontsを契約している人は、プランによる違いにも注意が必要です。
2026年度新書体は、Morisawa Fontsのスタンダードプラン、Select8/24、教育機関・公共団体・エンタープライズなどの業界別プラン、Webフォントが対象です。
ただし、Select8ではすべての写研フォントが提供対象外です。
そのためSelect8で「石井丸ゴシック」「本蘭明朝」などを使うつもりだった人は、提供開始後に8書体の枠へ追加するという使い方はできません。
Select24など、契約しているプランごとの対象範囲を確認しておく必要があります。
また、旧サービスのTypeSquareには2026年度新書体は提供されません。Webサイトで新書体を使いたい場合、モリサワはMorisawa Fontsのプランを案内しています。
MORISAWA PASSPORTを使っている人も契約形態を確認
現在も旧サービスのMORISAWA PASSPORTを利用している人は、さらに注意が必要です。
モリサワはMORISAWA PASSPORTからMorisawa Fontsへの移行を進めています。一方、サービス終了予定の告知以前に複数年契約を行い、現在も契約中のユーザーには、条件を満たす場合にMorisawa Fontsのライセンスへ無償で切り替える新書体サポートプログラムが用意されています。
教育機関・公共団体向けMORISAWA PASSPORTについては、2026年度新書体の提供が予定されています。
「モリサワを契約しているから10月14日になれば全部使える」と考えず、自分がどのサービス・プランを契約しているかを一度確認しておいたほうが良さそうです。
10月14日に35ファミリー提供開始
2026年度新書体の提供開始は10月14日14時予定です。
今回のラインナップは、新しいデザイン書体を追加するだけならここまで面白くなかったかもしれません。
活字や写植から受け継いだ骨格を持つ書体を改刻する。すでにデジタル化されたナールやゴナにはウエイトを足す。その一方で、現在の仕事へそのまま持ち込みやすい丸ゴシックや筆書体も増やす。
フォントの選択肢が増えたというより、過去の日本語タイポグラフィを現在の制作物へどう使うか、その選択肢が増えたと考えるほうが今回のアップデートを楽しめそうです。
同人誌なら表紙だけでなく本文へ。装丁ならタイトルだけでなく帯や目次へ。パッケージなら商品名だけでなく説明文との組み合わせまで。
10月14日の提供開始後は、書体見本だけで判断せず、自分が普段作っている文章やタイトルを入力して比較してみたいところです。
関連リンク
モリサワ|2026年度新書体35ファミリー発表
Morisawa Fonts 2026年度新書体の特徴・使用例
モリサワ|フォント製品の販売・提供状況
教育機関・公共団体向けMORISAWA PASSPORT 2026年度新書体情報