同人誌を初めて作ろうとすると、「絵や漫画を完成させる」以外に覚えることが突然増えます。
解像度、紙のサイズ、CMYK、塗り足し、製本、面付け、紙の厚さ、ノンブル、禁則処理……。印刷所の入稿マニュアルを読んでも、知らない単語から知らない単語へ飛んでしまった経験がある人も多いでしょう。
そんな印刷・デザインの基礎知識を一冊にまとめた、井上のきあさんの新刊『印刷とデザインのハンドブック デザイナーのための図説資料集』が2026年9月25日に発売されます。
デザイナーだけでなく、自分で同人誌やZINEを作っている人にも相性が良さそうな一冊です。
同人誌を作ると、なぜこんなに知らない言葉が出てくるのか
初めて同人誌を作るときに難しいのは、漫画やイラストの描き方とは別に「印刷物を作るための知識」が必要になることです。
たとえばA5サイズの漫画同人誌を作るだけでも、
- 原稿サイズはどうするのか。
- 画像の解像度はいくつ必要なのか。
- RGBのまま入稿していいのか。
- 表紙の紙はどれくらいの厚さなのか。
- 無線綴じとは何なのか。
- 本文のページ数はどう数えるのか。
と疑問が次々に出てきます。
もちろん、それぞれ検索すれば答えは見つかりますが、問題は何を知らないのか自体がまだわからないことです。
その状態では検索ワードすら思いつきません
『印刷とデザインのハンドブック』は、このバラバラになりやすい知識を「印刷」「色彩」「デザイン」「組版」の4章に整理しています。
紙のサイズから製本、面付け、解像度まで
第1章は「印刷」。
同人誌を作る人なら、ここだけでも気になる項目が大量にあります。
紙のサイズ、判型、紙と板紙の分類、紙目、連量、紙厚、本の各部名称、製本、綴じ方向、ページ番号、印刷原稿、面付け、解像度、網点、印刷方法、表面加工などが扱われます。
「連量」は、紙の厚さや重さを表すときによく目にする数字です。
印刷所で用紙を選んでいて「上質紙90kg」「コート135kg」のような表記を見たことがある人もいるでしょう。
この「kg」が連量です
こうした知識は、漫画を描くソフトの使い方だけ勉強していても、なかなか身につきません。
「350dpiって何?」も避けて通れない

同人誌の入稿で頻繁に登場するのが「解像度」です。
印刷所のマニュアルには「カラー350dpi」「モノクロ600dpi」などの指定がありますが、初めて見ると何の数字なのかわかりにくいものです。
本書には解像度とピクセル寸法についての資料も収録されています。
解像度は、画像をどれくらい細かく表現するかを示す尺度です。印刷では一般的にdpiという単位が使われます。
Webへ掲載する画像と、紙へ印刷する画像では求められる条件が違います。
普段SNSへイラストを投稿するだけだった人が同人誌を作り始めると、突然この知識が必要になります。
RGBとCMYKで色が変わる理由も知っておきたい
「画面では鮮やかな青だったのに、印刷したらくすんだ」
初めて印刷物を作ると起こりやすい問題です
本書の第2章では色彩を扱い、基本色と原色、印刷で注意する色、色相、配色、カラープロファイルと色変換などが収録されています。
ディスプレイで使われるRGBと、一般的なカラー印刷で使われるCMYKでは表現できる色の範囲が異なります。
蛍光色のような鮮やかな色を画面で作っても、そのまま通常のCMYK印刷で再現できるとは限りません。
イラストレーターにとって色は作品そのものなので、「印刷すると色が変わるらしい」で終わらせず、一度基礎を知っておく価値があります。
「オーバープリント」「トラップ」まで載っている
もう少し踏み込んだ印刷知識も入っています。
目次には「オーバープリントとトラップ」もあります。
オーバープリントは、下にある色を抜かず、その上から別の色を重ねて印刷する処理です。設定によっては画面上の見え方と印刷結果が変わる原因になります。
トラップは、複数の色版を重ねて印刷するときに起こる微細なズレを目立ちにくくするため、色の境界を調整する処理です。
同人誌を一冊作るために必ず自分でトラップ処理をしなければならない、という意味ではありません。
ただ、印刷トラブルが起きたときに「何が起きているのかわかる」側へ回れるのは大きな違いです。
漫画や小説同人誌なら「組版」の章も重要

第4章は組版です。
和文文字のつくりと書体、和文組版、文字サイズ、行間、ルビ、禁則処理、欧文組版、数字、単位、約物、漢字の字体、校正記号まで扱います。
組版とは、文字を読みやすく、美しく配置することです。
特に小説同人誌や評論系ZINEでは、表紙よりも本文の組版に触れている時間のほうが圧倒的に長くなります。
フォントを選んで文字を流し込めば終わりではありません。
文字サイズと行間のバランス、1行の文字数、余白、句読点、括弧、ルビなどを調整することで、読み心地は変わります。
「禁則処理」って何?
小説同人誌を作るなら覚えておきたいのが禁則処理です。
たとえば、「。」だけが次の行の先頭へ移動していたら、かなり不自然です
句読点や閉じ括弧など、行頭へ置かない文字を適切に処理するのが禁則処理です。
Word、InDesign、各種組版ソフトなどにも関連する設定がありますが、ソフトのボタンだけ覚えるより「なぜその処理が必要なのか」を理解しておいたほうが応用できます。
表紙デザインにも使える資料が多い

本書は印刷マニュアルだけではありません。
第3章にはアスペクト比、基本図形、罫線、矢印、角丸、パターン、構図、数列、錯視、視覚調整、グラフ、和のモチーフなど、デザイン制作で参照できる資料も収録されています。
同人誌の表紙を自分で作る人にも使えそうです
「なんとなく配置したら何か変」という状態から抜け出すには、センスだけで調整し続けるより、構図や比率について最低限の引き出しを持っていたほうが早い場合があります。
漫画・同人誌に使える素材も購入特典に

購入者限定のダウンロード特典として、漫画・同人誌・エディトリアルデザインに利用できる花のフレーム素材も用意されています。
資料集を読んで終わりではなく、制作へ持ち帰れる素材が付いているのも個人クリエイターにはうれしいところです。
著者自身も「デザイナーじゃなくても便利」と説明
タイトルには「デザイナーのための図説資料集」とありますが、著者の井上のきあさん自身が刊行前に公開した解説では、デザイナー以外にも便利だと説明しています。
また、特定ソフトのショートカットのように変化しやすい情報を避け、長く使える内容を意識したとのこと。
印刷について調べるたびに検索するのではなく、制作机の横へ置いて必要なときに開く「資料集」に近い使い方が想定されています。
独学で同人誌を作る人ほど役立ちそう

今は美術大学やデザイン専門学校へ行かなくても、CLIP STUDIO PAINTやIllustrator、InDesignなどを使い、自分で本を作れます。
印刷所も初心者向けのマニュアルを充実させています
一方で、独学だからこそ抜け落ちやすい知識があります。
「データは作れるけれど、なぜこの設定にするのかはわからない」という状態になりやすいのです。
『印刷とデザインのハンドブック』は、そんな人が一度バラバラになった知識を整理する用途にも合っています。
初めて同人誌を作る人はもちろん、すでに何冊も入稿しているけれど「印刷所のテンプレートに合わせているだけで、印刷の仕組みはよくわかっていない」という人にも面白そうです。
2026年9月25日発売。A5判176ページ、価格は2,750円(税込)です。