1976年に誕生した「OSAMU GOODS」が2026年で50周年を迎えました。
これを記念した全国巡回展「The 50th Anniversary OSAMU GOODS展」が、2026年12月10日から名古屋市美術館でも開催されます。
半世紀前のキャラクターなのに、今見ても「昔のかわいい絵」で終わらないのはなぜなのか。原田治が描いたイラスト、商品、販促物などを振り返ると、現在キャラクターやグッズを作るクリエイターにもつながるヒントが見えてきます。
原点は「日本らしいかわいさ」ではなく、60年代のアメリカだった

OSAMU GOODSを見ていると、線はシンプルで、色も明快。人物にはデフォルメが効いていますが、いわゆる日本の漫画的な「かわいい」とも少し違います。
そのルーツとして公式に挙げられているのが、原田治が1960年代のアメリカ雑誌『Seventeen』などで目にした女の子や、ハリウッド映画に登場する女優たちです。
彼女たちの周囲にある生活雑貨もデザインの着想源になりました
さらにキャラクターそのものは、イギリスの伝承童謡・童話として知られるマザーグースから着想しています。
1976年には、ジャックやジル、ドッグなどのキャラクターを収録した絵本『OSAMU’S MOTHER GOOSE』を刊行。ここからキャラクターの商品展開が始まりました。
つまり最初から「雑貨用のキャラクターを描こう」と始まったわけではありません。
絵本として作られた世界とキャラクターが、その後さまざまな物へ移っていった。この順番は、現在イラストレーターが自分のキャラクターをIPへ育てていくときにも参考になります。
IPは「Intellectual Property」の略で、知的財産を意味します。 クリエイター分野では、キャラクターや作品の世界観を商品、出版、映像など複数の用途へ展開するときにもよく使われる言葉です。
これまでに作られた商品は400点以上

OSAMU GOODSは、絵本だけに留まりませんでした。
これまでに作られた商品は400点以上。バッグ、ポーチ、文房具、歯ブラシ、タオル、食器など、生活の中で使う多種多様な物へキャラクターが展開されています。
ここは、現在キャラクターを作っているイラストレーターほど見ておきたいところです
キャラクターグッズを作るとき、元のイラストをそのまま商品へ印刷すれば成立するとは限りません。
- ノートなら縦長
- ポーチなら横長
- タオルなら面積が広い
- 歯ブラシなら極端に細い
など、商品が変われば使える画面の比率も、印刷できる場所も、購入者との距離も変わります。
一枚絵では成立していた構図が、商品では使いにくいこともあります
逆にOSAMU GOODSのように、輪郭が明快でキャラクター単体でも認識しやすい絵は、媒体が変わっても展開しやすい。
50年間残った理由を考えるなら、キャラクターの人気だけではなく、「物へ載せたときに強い絵だったか」という視点も外せません。
原田治が考えた「かわいい」には条件があった

原田治は「かわいい」を感覚だけで扱っていませんでした。
公式資料では、その定義として「明るく、くったくがなく、健康的な表情であること」に加え、わずかな淋しさや切なさを隠し味として入れることが紹介されています。
面白いのは、ただ笑顔にすれば「かわいい」と考えていないところです。
明るい。健康的。くったくがない。そこまでは理解しやすいのですが、最後に淋しさや切なさを入れる。
全部を100%明るくしてしまわないから、キャラクターに妙な余韻が残ります。
イラストを作るときに「かわいくしてください」「親しみやすくしてください」と言われることは珍しくありません。そのとき、丸くする、目を大きくする、パステルカラーにする、といった視覚的な処理だけで考えがちです。
原田治の定義はもう一段内側にあります。
どんな感情を持った人物に見えるかまで決めてから、かわいさを作っている。
キャラクターを長く使いたいなら、目や髪型のデザインシートだけでなく、「このキャラクターのかわいさとは何か」を文章にしてみるのも良さそうです。
1970年代のキャラクターが今見ても古びにくい理由
50年間まったくデザインを変えずに生き残るキャラクターは多くありません。
特にファッションや若者文化に近いキャラクターは、その時代の流行を強く取り込むほど、数十年後には年代が見えやすくなります。
OSAMU GOODSにも1970〜80年代らしい空気はあります。
それでも、現在の商品売り場へ置いたときに「昔のキャラクターを復刻しました」という見え方だけになりにくい。
理由のひとつとして考えられるのが、情報量の整理です。
キャラクターの輪郭は明快で、顔の要素も多くありません。配色もグラフィカルで、人物を細密に描き込む方向ではありません。
服装や髪型など一部に時代性が出ても、キャラクターを成立させている核まで流行へ依存しにくい。
これは現在のイラストレーターにも重要です
SNSで流行している目の描き方、色処理、エフェクトを取り入れることと、自分のキャラクターを識別するための要素を作ることは別です。
10年後にも残したいキャラクターなら、流行を全部抜いたあとに何が残るのかを考えてみる価値があります。
展覧会そのもののグラフィックも服部一成が担当


今回の50周年展は、展示物だけでなく展覧会のデザインにも注目です。
会場構成を担当するのは五十嵐瑠衣氏。キービジュアル制作からグラフィックデザインまでのアートディレクションは服部一成氏が担当しています。2019〜2024年に全国を巡回した『原田治展「かわいい」の発見』でも組んだ二人が、再びOSAMU GOODSを扱います。
アートディレクションは、広告や出版物、展覧会などで、個々のデザインを作るだけでなくビジュアル全体の方向性を設計・統括する仕事です。 写真、イラスト、文字、レイアウトなどをどう組み合わせて一貫した見え方を作るかまで考えます。
服部氏は『流行通信』『here and there』『真夜中』などの雑誌、くるりのアートワーク、美術館のVI、原田治の書籍『ぼくの美術ノート』『OSAMU’S A to Z 原田治の仕事』なども手掛けています。
VIはVisual Identityの略で、ロゴ、色、書体などを使ってブランドや施設の視覚的な統一感を作る考え方です。
50年前のグラフィックを、そのまま懐古的に並べればいいわけではありません。
現在の展覧会としてどう見せ直すのか。
原田治のイラストを見るだけでなく、別のデザイナーが2026年にOSAMU GOODSをどう編集しているかまで見ると、グラフィックデザインの展示としても面白くなります。
「絵が人気になる」と「キャラクターが50年残る」は別の話
現在なら、SNSへ一枚のイラストを投稿して数万人、数十万人へ届くことがあります。
ただ、その絵が10年後にも使われているかは別です。
OSAMU GOODSの50年を見ていると、キャラクターを長く残すには「いい絵を描く」だけでは足りないことが見えてきます。
- 絵本になる
- 商品になる
- 生活の中で使われる
- 新しい世代が再発見する
- 別のデザイナーが新しい見せ方を作る
そうした循環を繰り返しています。
個人クリエイターでも、自分のキャラクターをアクリルスタンドへする、ZINEへする、ステッカーへする、イベントへ出す、と展開することは珍しくなくなりました。
そのとき「何種類グッズを作るか」だけではなく、このキャラクターはどんな物になったときに魅力が増すのかまで考える。
OSAMU GOODSの400点を超える商品群は、その答えを考える資料にもなります。
名古屋会場は12月10日から、前売券は9月25日発売

名古屋会場は名古屋市美術館で、2026年12月10日から2027年1月22日まで開催されます。
通常の前売券は9月25日10時から販売。一般1,800円、高校・大学生1,300円、小・中学生500円。
また、オリジナルグッズ付き入場券は3,600円で、9月18日から数量限定で販売されています。
予定数に達し次第終了します。
50周年展は名古屋だけで完結する企画ではなく、横浜から始まった全国巡回展です。現在は大丸ミュージアム〈京都〉で10月5日まで開催されており、名古屋へ続きます。
「懐かしいキャラクターを見に行く」だけでも楽しめますが、イラストレーターやグラフィックデザイナーなら、もう少し細かく見たいところです。
- 輪郭をどう整理しているか
- 色はいくつ使っているか
- 商品が変わったときにキャラクターをどう配置しているか
- 1970年代の資料を2026年の展覧会ではどう見せているか
そして何より、なぜこの絵は50年間、商品になり続けられたのか。
そこまで追ってみると、キャラクターを作る側にとっても資料性の高い50周年展になりそうです。
関連リンク
The 50th Anniversary OSAMU GOODS展 名古屋会場|開催発表・チケット情報
OSAMU GOODS公式サイト
50周年展の会場構成・アートディレクション・展示概要
The 50th Anniversary OSAMU GOODS展 京都会場