Holiday Exotica

デザイン・トレンド

1950〜80年代の旅行パンフ400点超を収録 デザイン資料集『Holiday Exotica』が面白い

まだGoogleマップもInstagramもなく、旅先の風景を動画で確認することもできなかった時代、人を知らない土地へ連れ出したのはどんなデザインだったのでしょうか。

1950〜80年代の旅行パンフレットやフライヤーを集めた『Holiday Exotica』がFUEL Publishingから登場しました。224ページに400点を超える図版を収録した、グラフィックデザイナーやイラストレーターにとっても面白い資料集です。

『Holiday Exotica』は、私たちがかつてどのように旅への憧れを満たしていたかを描く、史上初のビジュアルガイドです。これらの貴重で懐かしいパンフレットは、インターネット以前の時代における人々の観光に対する意識の変化を反映しています。

「この場所へ行きたい」を印刷物だけで作っていた時代

『Holiday Exotica』に収録されているのは、アフリカ、オーストラリア、アメリカ、ユーゴスラビアをはじめ、世界各地への旅行を宣伝するヴィンテージのパンフレットやフライヤーです。

現在なら旅行先を決める前に、スマートフォンで検索すれば大量の写真が出てきます。ホテルの部屋もGoogleマップ周辺の街並みも、旅行者が撮影した動画まで確認できます。

1950〜80年代は違います。

旅行者がまだ見たことのない土地へ興味を持つ入口として、パンフレットが今よりずっと大きな役割を担っていました。

  • 海をどう青く見せるのか
  • ホテルをどの角度から見せるのか
  • 人物を描くのか、風景だけにするのか
  • どんな書体を使えば異国らしく見えるのか

限られた紙面で「ここへ行ってみたい」と思わせなければなりません。

現在の広告デザインとは違う制約があるからこそ、眺めているだけでも発見があります。

写真よりイラストのほうが魅力的に見えることもある

収録作品を見ると、旅行広告だからといって写真だけに頼っているわけではありません。

イラストレーションを大きく使ったもの、写真とタイポグラフィを大胆に組み合わせたもの、目的地そのものより「そこで過ごす時間」を描いたものなど、表現はさまざまです。

現在なら、旅行広告で美しい海を見せたいときには高解像度の写真を用意する方法が真っ先に浮かびます。

ところがイラストなら、現実をそのまま見せる必要がありません。

  • 空をもっと青くする。
  • ホテルを象徴的に描く。
  • 人物の服装やポーズで「こんな休日を過ごせる」と伝える。

土地そのものではなく、その土地へ行った自分がどう感じるのかまで一枚へ描き込めます。

イラストレーターにとっては、絵を「説明するため」に使う場合と「欲しくさせるため」に使う場合の違いを見る資料にもなりそうです。

タイポグラフィだけ見ても面白い

旅行パンフレットを眺めるなら、写真やイラストだけでなく文字にも注目したいところです。

  • 地名を大きく置く。
  • 斜体でスピード感を出す。
  • 文字を曲線状に配置する。
  • 写真の上へ大胆に文字を重ねる。

現在ならWebサイトで扱いにくいようなレイアウトでも、紙なら自由に組めます。

タイポグラフィとは、文字の書体、大きさ、字間、行間、配置などを組み合わせ、情報を読みやすくしたり印象を作ったりする設計のことです。

文字を単に「情報を書く場所」として扱うのではなく、写真やイラストと同じくらい強いグラフィックとして使っている事例もあります。

同人誌の表紙やZINE、ポスターを作るときにも参考になる部分です

情報量が多くないのに、なぜ旅行したくなるのか

ヴィンテージデザインを見るとき、装飾や配色だけを真似したくなります。

ただ、『Holiday Exotica』でさらに面白いのは、「何を見せていないのか」です。

現代の旅行サイトなら、ホテルの設備、料金、アクセス、口コミ、周辺施設、部屋の写真など大量の情報があります。

古い旅行パンフレットでは、それほど多くの情報を一度に見せられません。

だからこそ、一枚の写真、一点のイラスト、一つのコピーへ役割を集中させます。

情報が足りない部分は、見る人の想像力が埋めます。

これは現在のデザインでも使える考え方です

全部説明することが、必ずしも魅力につながるわけではありません。

同人誌の告知画像なら、本の内容をすべて載せる必要はない。作品集の表紙なら、収録作品を全部見せる必要もない。

「何を伝えるか」と同じくらい「何をまだ見せないか」を決める。

旅行パンフレットは、そのバランスを考える格好の資料になります。

レトロ風デザインを作るときこそ「本物」を見たい

現在も「レトロ」「ミッドセンチュリー」「昭和レトロ」といった表現は人気があります。

ただ、レトロ風のデザインだけを参考にしていると、さらにその元になった表現から離れていきます。

過去を再現した現代作品ではなく、当時本当に使われていた印刷物を見る意味はここにあります。

  • どんな色が使われていたのか
  • 写真はどの程度の大きさだったのか
  • 文字と写真の距離はどう取られていたのか
  • 余白はどれくらいあるのか
  • イラストはどんなタッチだったのか

現在なら避けそうな組み合わせが、当時は普通に使われていることもあります。

「レトロっぽさ」という曖昧な印象を、具体的なデザイン要素へ分解できます。

パンフレットという「捨てられる印刷物」が資料になる

もうひとつ興味深いのが、収録されているものの多くが美術作品ではなく、旅行を売るために作られた印刷物だという点です。

パンフレットやフライヤーは、本のように長期間保存されることを前提としていない場合もあります。

役割を終えれば捨てられてしまう。ところが数十年後に見れば、その時代の配色、書体、イラスト、写真、印刷、旅行文化をまとめて残した資料になります。

これは今のクリエイターにも関係があります

  • イベントでもらったフライヤー
  • ショップカード
  • 商品パッケージ
  • 同人誌の帯
  • 紙袋
  • 昔買った雑誌

デザイン資料を探すとき、名作ポスターや有名デザイナーの作品集だけを見る必要はありません。

身の回りにある「保存するつもりで作られていないデザイン」に、面白いものが眠っていることがあります。

表紙もスクリーン印刷

『Holiday Exotica』自体の造本にも注目です。

判型は180×220mm、ソフトカバー、224ページ。表紙にはスクリーン印刷が使われています。

スクリーン印刷は、細かな網目を持つ版からインキを押し出して印刷する方法です。 紙だけでなく布や樹脂など幅広い素材へ印刷でき、インキをしっかり載せられるため、一般的なオフセット印刷とは違った質感を作れます。

ヴィンテージの印刷物を収録する本そのものにも、印刷物として触りたくなる仕様が使われているわけです。

Webで収録作品を見るだけではなく、本という形でまとめる意味を考えるうえでも面白いところです。

デザイン資料は「同業者の作品」だけではない

デザイナーが資料を探すと、つい現在活躍しているデザイナーの作品へ集中します。

イラストレーターならイラスト集、装丁家なら装丁、WebデザイナーならWebギャラリーを見る。

もちろんそれも必要です。

ただ、旅行パンフレット、古い包装紙、切符、食品パッケージ、広告、看板のようなものまで範囲を広げると、普段とは違うアイデアが見つかります。

『Holiday Exotica』に収録された旅行パンフレットも、その一例です。

数十年前、まだ会ったこともない客へ「知らない場所へ行きたい」と思わせるために、デザイナーとイラストレーターが何をしていたのか。

ヴィンテージ好きでなくても、そこだけ見てみる価値はありそうです。

『Holiday Exotica』は、私たちがかつてどのように旅への憧れを満たしていたかを描く、史上初のビジュアルガイドです。これらの貴重で懐かしいパンフレットは、インターネット以前の時代における人々の観光に対する意識の変化を反映しています。

関連リンク

FUEL Publishing|Holiday Exotica
Wallpaper*|Holiday Exotica celebrates vintage holiday brochure design
ARTBOOK / D.A.P.|Holiday Exotica

-デザイン・トレンド
-,