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AI時代に231体の人形を動かす。LAIKA新作『Wildwood』が守るストップモーション

画像も動画も短時間で生成できる2026年に、ひとつのキャラクターを作るだけで約3,000時間。
ストップモーションスタジオLAIKAの新作『Wildwood』は、そんな途方もない制作方法で作られています。

作品には136のセットと231体のパペットを使用。上映時間は139分で、LAIKA史上でも最大規模の作品です。

2026年10月23日に劇場公開を予定しています

『Wildwood』の制作規模

公開されている数字だけでも、制作量が見えてきます。

項目内容
上映時間139分
制作セット136
パペット231体
ある1キャラクターの制作時間約3,000時間
劇場公開予定2026年10月23日

約3,000時間を費やしたのは、The Generalと呼ばれるゴールデンイーグルのキャラクターです。

一人が休まず作っても125日分です

もちろん映画制作は単純に時間を割ればいい話ではありませんが、一体のパペットへそれだけの工程を使う世界であることは分かります。

16年前から映画化を構想

『Wildwood』は、The Decemberists(ロックバンド)のColin Meloyによる小説を原作とし、Carson Ellisが挿絵を手がけています。

Travis Knight氏は約16年前から映画化を考えていましたが、当時のLAIKAには物語を映像化するだけの技術が整っていないと判断していました。過去作品で蓄積した技術を重ね、ようやく制作へ入ったと話しています。

それでも着手してみると、想定以上の難しさがあったそうです。

新しい作品を作るために新しい技術を導入する。その技術を次の映画へ持ち越し、さらに難しい表現へ進む。

LAIKAの制作は、昔ながらの手法をそのまま保存しているわけではありません。

「手作業だからCGを使わない」ではない

ストップモーションというと全てをアナログで作っているように見えますが、LAIKAはCGやVFXも積極的に使っています。

LAIKAのCGライターLeon Hodge氏は、『Wildwood』では過去作品以上に多くのVFXを使用していると説明しています。CGの役割は、ステージ上で撮影したパペットやセットの映像となじませながら、物語を支えることです。

つまり「手仕事かデジタルか」という二択ではありません

触れることのできるパペットやセットを中心に据え、その表現を広げるためにCGを使う。

ここは生成AI時代の制作を考えるうえでも面白いところです。

新技術を使った瞬間に手仕事ではなくなるわけではありません。どこを人間が作り、どこへ技術を使うかで作品の性格は変わります。

「時間をかけること」を価値にする

AP通信の取材でKnight氏は、短時間で世界そのものを生成できる現在について触れながら、時間と注意を注ぎ、物へ少しずつ命を与える行為には特別な価値があると話しています。

そして、その姿勢を「quiet act of rebellion(静かなる反逆)」と表現しました。

効率化への反対というより、すべてを速くする必要はないという感覚に近そうです

映像制作では、

  • レンダリングを速くする
  • 編集を自動化する
  • 背景を生成する

など、制作時間を削る技術が次々に登場しています。

それでも、時間をかけたこと自体が画面に残る表現もあります。

パペットの素材感、布のしわ、照明が物体へ当たったときの反応。それらは「手作業だから偉い」という話ではなく、作品の見え方そのものに関わります。

LAIKAは素材選びまで妙に細かい

LAIKAの制作で面白いのは、パペットの細部です。

同社が公開している制作情報を見ると、『Coraline』では主人公のパジャマを撮影中に交換できるよう45セット制作。『Kubo and the Two Strings』では、衣装へ異なる太さの糸を縫い付けて使い込まれた質感を作っています。

見た人が「ここは45着作ったんだな」と気付くわけではありません。

画面に映る一瞬の説得力のために、見えない部分へ手間を使っています。

こうした工程は効率だけを基準にすれば削れる場所です。

それでも残す理由は、完成映像の質感へつながるからでしょう。

ストップモーションは「古い技術」になっていない

CGアニメーションが一般化しても、ストップモーションは消えませんでした。

LAIKAだけでなくAardman Animationsも作品を作り続けています。

技術として新しいから残っているわけではありません。

逆に、誰でもCGや生成AIへアクセスできるようになるほど、物を作って撮るという方法そのものが特徴になります。

これはフィルム写真や手描きデザインが再評価される流れにも似ていますね

デジタルでは再現できないから選ぶのではなく、デジタル以外の方法を選ぶこと自体が作品の個性になる。

制作手段も表現の一部になっています。

AIと手仕事は、本当に反対なのか

『Wildwood』の制作姿勢を見ると、AI対人間という単純な構図で考える必要もなさそうです。

LAIKA自身がCGを使っているように、新しい技術を拒否しているわけではありません。

大切なのは、技術によって何を置き換えるかです。

制作工程で時間がかかることをすべて問題として扱えば、ストップモーションは真っ先に消える方法でしょう。

それでもLAIKAは、手作業によってしか得られない質感や偶然性を作品の中心に置き、デジタル技術をその周囲へ使っています。

AIを導入する制作現場でも同じ問いが出てきます

速く作れるから使うのか。今までできなかった表現ができるから使うのか。それとも、人間が集中したい部分を残すために使うのか。

どの答えを選ぶかで、同じAIツールを使っていても完成する作品は変わります。

231体の人形が示す「効率以外」の価値

クリエイター向けの新技術では、「○時間かかっていた作業が○分に」という説明をよく見ます。

それ自体は便利です。ただ、制作の価値を時間だけで測ると見えなくなるものもあります。

一体のパペットへ3,000時間を使うことは、効率だけなら合理的ではありません。それでも、その3,000時間によって作品にしかない質感が生まれるなら、制作側にとっては意味があります。

『Wildwood』は、生成AIへの反論として作られた映画ではありません。

それでも、数秒で画像を作れる時代に139分の映画をパペットで撮る姿そのものが、制作とは何かを考えさせます。

新しいツールを追い続けるCreator Deskでも、こういう「なぜわざわざ手間をかけるのか」という話は、同じくらい追っておきたいテーマです。

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