海外のWebtoonやWeb小説を中心に展開してきたコンテンツプラットフォーム「Manta」で、日本の漫画が一気に増えます。
Mantaは2026年9月7日、KADOKAWA、スクウェア・エニックス、スクウェア・エニックスのグローバル漫画サービス「Manga UP!」との契約により、300タイトルを超える日本漫画をラインナップへ追加したと発表しました。『薬屋のひとりごと』『黄泉のツガイ』『東京レイヴンズ』なども含まれています。
Mantaはもともと韓国発のWebtoon・Web小説プラットフォームです。
そこへ日本の従来型漫画が並び始めたことは、漫画の海外展開を考えるうえで少し気になる動きです。
Mantaに日本漫画300タイトル超が追加
今回Mantaが発表した提携先は、KADOKAWA、スクウェア・エニックス、Manga UP!です。
追加作品は300タイトル超。発表では代表作として次の作品が挙げられています。
- 『薬屋のひとりごと』
- 『黄泉のツガイ』
- 『TOKYO RAVENS』
- 『Proud to be the Villainess: I'm Doomed After Stealing my Half-Sister's Fiance and Having Her Banished』
Manta上では、KADOKAWAやスクウェア・エニックスのライセンス表記が付いた漫画もすでに公開されています。
300タイトルという数字だけでもまとまった規模ですが、今回のポイントは作品数よりも「どこで売られるか」にあります。
MantaはもともとWebtoon・Web小説のサービス
Mantaは韓国のRIDIが展開するグローバルコンテンツプラットフォームです。
これまでは縦読みのWebtoonやWeb小説を主力としてきましたが、2026年4月に漫画カテゴリーを本格的に開始。最初の大手提携先として講談社作品を投入しました。
そこへ今回、KADOKAWAとスクウェア・エニックスが加わった形です。
Webtoonは、スマートフォンで上から下へスクロールしながら読むことを前提にした縦長形式の漫画です。日本で一般的なページ単位・コマ割り型の漫画とは、画面設計や読み進め方が異なります。
Mantaでは今後、Webtoon、Web小説、日本式の漫画が同じサービス内に並びます。
海外市場で「漫画」と「Webtoon」を別ジャンルとして切り離すのではなく、ひとつのコンテンツプラットフォームで横断して読ませる形が強まっているとも読めます。
4月は講談社、今回はKADOKAWAとスクエニ
Mantaの漫画カテゴリーが始まったのは今年4月です。
そこから約5か月で、
- 講談社
- KADOKAWA
- スクウェア・エニックス
という日本の大手出版社が並びました。
このスピード感は少し面白いところです
日本漫画を専門に扱う海外サービスへ出版社が作品を供給すること自体は珍しくありません。
今回違うのは、MantaがもともとWebtoonやWeb小説の読者を抱えている点です。
漫画を探してMantaへ来た人だけではなく、Webtoonを読んでいたユーザーが、そのまま日本漫画へ移動する導線が作られます。
Manta側も、WebtoonやWeb小説を読むユーザーが自然に漫画へ広がっていると説明しています。
日本漫画の海外展開で「売り場」が変わり始めている
日本漫画の海外配信というと、これまでは電子書店や漫画専門サービスを思い浮かべる人が多いでしょう。
しかし海外では、
- Webtoon
- Web小説
- 日本漫画
- アニメ
- ファンコミュニティ
の境界が日本ほどはっきりしていないサービスも増えています。
Mantaの今回の動きはその象徴に近いです。
日本の漫画を「日本漫画専用棚」へ置くのではなく、Webtoon読者がいる場所へ直接持っていく。
海外ユーザーからすると、「Mangaを読むために別アプリへ移動する」必要がなくなります
この違いは、作品が新しい読者へ見つかる確率にも影響しそうです。
『薬屋のひとりごと』『黄泉のツガイ』もラインナップへ
今回追加された作品には、すでに海外でも認知されているタイトルが含まれています。
Mantaは『薬屋のひとりごと』について北米で強い実績を持つ作品として紹介し、『黄泉のツガイ』も新ラインナップに含めています。
まず知名度のある作品を入口にして、日本漫画カテゴリーそのものへ読者を誘導する狙いがあるのでしょう。
Mantaでは新規作品の一部について最初の3話を無料公開し、漫画作品を30%割引するグローバルキャンペーンも実施しています。
単に作品を追加するだけではなく、Webtoon読者に漫画を試してもらう施策までセットです。
漫画家にとって何が変わる?
今回の契約だけで、日本の漫画家がMantaへ直接投稿できるようになったわけではありません。
出版社とMantaとのライセンス契約による配信です。
そのため、個人の漫画家が今すぐ何か設定を変更するようなニュースではありません。
ただし、商業漫画を描く人にとって「作品がどこへ配信される可能性があるか」は広がっています。
国内出版社から単行本を出した漫画が、
- 日本の電子書店
- 海外の電子書店
- 出版社の海外サービス
- Webtoon系プラットフォーム
へ展開されるケースが今後さらに増えるかもしれません。
漫画を描く側からすると、国内販売だけを想定して作った作品が、別の読書文化を持つユーザーへ届く機会が増えているわけです。
「縦読み漫画を描かなければ海外へ行けない」わけではない
数年前まで、海外デジタル漫画市場の話になるとWebtoonの成長ばかりが語られがちでした。
そのため、「海外を狙うなら縦読み漫画を作った方がいい」という議論もよく見かけました。
今回のMantaは逆方向です。
Webtoon中心だったプラットフォーム側が、日本のページ漫画を取り込みに来ています。
つまり、日本の漫画家が海外向けに必ずWebtoon形式へ描き直さなければならない、という話ではありません。
従来の漫画表現をそのまま海外へ運ぶ販路が拡大しています
もちろん、読みやすさや翻訳、レタリングなど海外配信向けの調整は必要になります。
それでも「フォーマットを変えなければ海外へ届けられない」という前提は、少しずつ崩れてきています。
海外版では翻訳だけでなくレタリングも重要
日本漫画を海外へ展開するときには、セリフの翻訳だけでは終わりません。
吹き出しへ文字を組み直したり、効果音を処理したりする「レタリング」も必要です。
レタリングは、翻訳したセリフや効果音を漫画の吹き出しやコマへ配置し直す作業です。単なる文字入力ではなく、書体、サイズ、改行、読みやすさまで含めて設計します。
日本語と英語では、一文に必要な横幅も文字量も異なります。
日本語なら収まっていた吹き出しでも、英訳すると文字が入りきらないことがあります
そのため漫画の海外展開が増えるほど、翻訳だけではなく「翻訳された漫画を読みやすく仕上げるデザイン」の需要も増えます。
漫画家だけでなく、グラフィックデザイナーや漫画編集・DTPに関わる人にも接点のある話です。
Webtoonと漫画の読者が混ざると、作品の作り方にも影響するかもしれない
今回の発表でもうひとつ気になるのが、Webtoonと漫画が同じ場所で比較されることです。
Webtoonは冒頭からテンポよく読み進められる作品が多く、スマートフォンでの読書を強く意識しています。
一方、日本漫画にはページをめくった瞬間の見開きや、コマの大小による間、ページ単位の演出があります。
どちらが優れているという話ではありません。
ただ、同じユーザーが両方を読むようになると、読者側の「読みやすい」「続きを読みたい」という感覚も混ざっていきます。
日本の漫画家がWebtoon的なテンポを取り入れることもあれば、海外のWebtoon作家が日本漫画のコマ割りや演出を参考にすることもあるでしょう。
配信プラットフォームが混ざることで、表現側もゆっくり混ざっていく可能性があります。
日本の漫画出版社は海外への出口を増やしている
今回のニュースを「Mantaというサービスに作品が増えた」だけで終わらせると、少しもったいない気がします。
日本の出版社が海外へ作品を届ける出口そのものが増えているからです。
出版社自身が海外向けサービスを運営する形もあれば、現地の電子書店へ供給する形もあります。
そこへMantaのようなWebtoon系プラットフォームも加わってきました。
作品を作る側からすると、海外展開は以前より「特別な一部の大ヒット作だけの話」ではなくなりつつあります。
国内で出版された作品が、出版社と海外プラットフォームの契約によってそのまま別市場へ運ばれる。
漫画家本人が海外営業をしなくても、作品の流通範囲が広がる構造ができています。
Webtoon対Mangaではなく「どちらも読む」時代へ
日本では「漫画」と「Webtoon」を競合するフォーマットとして語る記事も多くあります。
ただ、読者はそこまできれいに分けていないのかもしれません。
- 面白ければWebtoonも読む
- 面白ければ日本漫画も読む
- 小説も読む
Mantaが目指しているのは、おそらくこちらです。
同社CEOのYupil Won氏も、MantaでWebtoonやWeb小説を読むユーザーが自然に漫画へ広がっていると説明しています。
出版社側から見れば、既存の漫画読者を奪い合うだけではなく、これまで日本漫画を積極的に読んでいなかった層へ作品を届けられる可能性があります。
漫画家にとっても悪い話ではありません。
「日本の漫画を海外へ売る」というより、海外で別のコンテンツを読んでいた人の隣に、日本漫画を置く。
今回のMantaの動きは、その流通モデルが広がっているニュースとして見ると面白いです。