英国の世界的芸術大学院であるRoyal College of Art(RCA)が、2026年9月1日付で、これまで分かれていたCommunicationとDesignの教育組織を統合しました。
2026年9月から、新たに「School of Communication & Design」がスタートしています。
従来の「School of Communication」と「School of Design」を1つにまとめ、大学全体もSchool of Architecture、School of Arts & Humanitiesと合わせた3スクール体制へ再編されました。
単なる組織変更にも見えますが、RCAが理由として挙げているのは、デザインとコミュニケーションの領域が以前より強く結び付いていることです。
AIやコード、映像、プロダクト、ファッションなどが混ざり始めた現在のクリエイティブ業界を考えると、かなり象徴的な変更です。
School of Communication & Designを新設
RCAは2026年9月1日、新しいSchool of Communication & Designの設立を正式発表しました。
新スクールにはVisual CommunicationやAnimationだけでなく、Fashion、Textiles、Design Products、Digital Direction、Information Experience Design、Innovation Design Engineeringなど幅広いプログラムが集まります。
日本語で言うところの…
従来は別々に分かれていた「グラフィックや映像などの視覚伝達系(Communication)」と「ファッションや工業製品などのプロダクト系(Design)」の枠組みを撤廃し、両分野を統合した新たな「総合デザイン学部(School of Communication & Design)」としてスタートするような形です。
グラフィックデザインとプロダクトデザインを一緒にした、という程度の再編ではありません。
映像、ファッション、情報デザイン、プロダクト、テクノロジーまで、従来なら別領域として扱われやすかった分野を1つのコミュニティへ集めています。
RCAの4学部構成(再編前後の比較)
| 学部名 | 従来の構成 | 2026年9月〜の新構成 |
|---|---|---|
| 建築学部 (School of Architecture) | 建築 都市計画 インテリアデザイン など | (変更なし・継続) |
| アーツ&ヒューマニティーズ学部 (School of Arts & Humanities) | ファインアート(絵画・彫刻) 写真 現代美術 キュレーション デザイン史 など | (変更なし・継続) |
| コミュニケーション学部 (School of Communication) | グラフィック アニメーション イラスト 情報体験デザイン など | 2学部が統合 コミュニケーション&デザイン学部 (School of Communication & Design) |
| デザイン学部 (School of Design) | ファッション テキスタイル プロダクト イノベーションデザイン工学 など |
従来は
- 建築
- アーツ
- コミュニケーション
- デザイン
の4頭政治だったものが、2026年9月の改編により
- 建築
- アーツ
- コミュニケーション&デザイン
という3大メガ学部体制へ移行することになります。
「コミュニケーション」と「デザイン」を分けにくくなっている
RCAは今回の再編について、communicationとdesignの実践が相互につながるようになっていることを理由の1つに挙げています。
新しいスクールでは、素材を扱う技術、制作、先端テクノロジー、批評的な研究を横断しながら学ぶ方針です。
実際、現在のデザイナーの仕事を見ても領域をきれいに分けるのは難しくなっています。
Webサイトを作ればUIだけでなく文章や映像も関わり、ブランドを作ればグラフィックだけでなくSNS、プロダクト、空間まで展開されます。
Figmaのようなツールでは、デザインとコードの境界もかなり近づいています。
学校側の分類が実際の仕事へ近づいてきた、と見ることもできそうです。
RCAはAIの変化も明確に意識
新スクールのDeanであるProfessor Kerry Curtisは、AIのようなテクノロジーが「communicate, design and make」の方法を変えていると説明しています。
ここで面白いのは、AI専門の学科を新設する方向ではないことです。
既存のデザイン教育とは別に「AIデザイン」を置くのではなく、もともと存在する複数のクリエイティブ分野を近づけています。
AIによって新しい専門分野が1つ増えたというより、AIを含むテクノロジーによって既存分野の境界自体が薄くなっている、と捉えているように見えます。
グラフィックだけを作るデザイナーは減る?
もちろん今回のRCA再編だけでデザイン業界全体の未来が決まるわけではありません。
それでも、教育機関がどのような人材を育てようとしているかを見ると、業界が向かっている方向は少し見えてきます。
最近の制作ツールでも同じ動きがあります。
Figmaはデザインキャンバスの中へコード、Motion、shader、AI agentを持ち込み、AdobeはPhotoshopなど70以上の機能をSlackから呼び出せるようにしました。
- グラフィックを作る
- コードを書く
- 映像を作る
- コミュニケーションを設計する
こういった作業を、それぞれ完全に別の専門職へ分ける前提が少しずつ崩れています。
それは、全員が何でもできなければならないという意味ではありません。
自分の専門を持ちながら、隣の領域とどう接続するかが以前より重要になっている、と考えた方が近そうです。
クリエイティブ教育も「専攻」より横断へ
RCAの新スクールでは、異なる分野の学生や研究者が共同で学び、研究し、制作する機会を増やす方針です。
デザインの仕事では以前から「分野横断」という言葉が使われてきましたが、AIや生成技術の普及でその意味がもう一段変わっています。
ツールを覚えるだけならAIでも補助できます。
一方で、
- 何を作るのか
- どの技術を組み合わせるのか
- それが誰にどう伝わるのか
を考える部分は、複数の領域を行き来できた方が強い。
世界的なデザイン教育機関がCommunicationとDesignを分けることをやめたのは、そうした変化をかなり分かりやすく表しているニュースです。