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Adobe、Times Squareの38画面をどう作った?392点・20TBを管理した制作フロー

Adobeが2026年9月4日、タイムズスクエアで実施した大規模広告「Just Imagine」の制作工程を公開しました。

Just Imagineって?

ニューヨーク・タイムズスクエアの巨大デジタルサイネージ群を、Adobeの生成AIブランド「Firefly」でジャックした大規模プロモーション。世界屈指の広告空間をFirefly生成ビジュアルで埋め尽くし、AIが日常に溶け込む未来を象徴しました。

使ったディスプレイは38面アスペクト比は30種類に分かれ、掲出エリアはニューヨークの6ブロックにまたがります。
そこへ392点のFirefly画像・動画を展開し、完成したコンテンツは合計3.8時間、レンダリングしたフレームは300万以上データ量は約20TBに達しました。

数字だけでも大規模ですが、制作側から見ると気になるのは別のところです。
サイズも縦横比も違う38面を、どうやってひとつの広告として成立させたのか。

Adobeが今回公開した舞台裏には、大量のビジュアルを扱う案件で制作フローをどう組むかというヒントがあります。

Just Imagineの現地写真
画像:New Tradition Instagram

38画面を「38本の広告」として作るわけではない

ニューヨークのタイムズスクエアには、同じ規格のデジタルサイネージが整然と並んでいるわけではありません。

Adobeが使用した画面には、12フィート(約3.6m)ほどのものから200フィート級(約60m)のものまであり、縦横比も30種類ありました。

しかも38面は個別に見ても成立しながら、同時に見たときにはひとつの演出としてつながっている必要があります。

午後8時30分から始まる1時間のテイクオーバーでは、静止画を表示する画面、映像が流れる画面、別の動きへ切り替わる画面を同期させました。

同じデザインを38サイズへリサイズするだけでは対応できません

横長の画面では成立する構図が、細長い縦型では使えない。人物やモチーフの位置を変えれば視線の流れも変わります。

制作物を増やす前に、「異なる画面へ展開しても同じキャンペーンに見えるルール」を作る必要があります。

使われたFirefly素材は392点

今回のテイクオーバーには、392点のFirefly画像・動画が使われました。

制作したのはAdobeの社内チームだけではありません。

Adobe社員やコミュニティのほか、合計約9000万人のフォロワーを持つ23人のインフルエンサーも参加し、70点以上の素材を制作。さらに8人のアーティストが現地向けコンテンツに参加しています。

ひとりのアートディレクターがすべての絵を作り、そのバリエーションを展開したキャンペーンではありません。

複数の人が別々のビジュアルを作りながら、最終的にはひとつの「Just Imagine」というブランド表現へまとめています。

大勢が参加する制作では、素材を増やすことよりも、増えた素材をどう同じ世界観へ収めるかの方が難しくなります。

アイデア出しにはFirefly Boardsを使用

Adobe- タイムズスクエア広告
画像:Adobe Blog

制作初期には「Firefly Boards」が使われました。

Firefly Boardsは、画像や参考資料、生成結果などを同じキャンバス上へ並べながら、アイデアやビジュアルの方向性を検討できるツールです。

Adobeのチームは、最初から数案へ絞り込むのではなく、Boards上で幅広いビジュアルを試しながら制作方向を決めています

タイムズスクエアのように掲出場所そのものが特殊な案件では、通常の広告で成立するビジュアルがそのまま使えるとは限りません。

既存の「Just Imagine」キャンペーン素材も使われましたが、それだけでは足りず、ニューヨークという場所に合わせた画像、新しいモーション、巨大スクリーンで成立する構図が追加されました。

AIによる生成枚数より、制作初期に検討できる方向を増やし、その中から場所に合う表現を選ぶために使ったことの方が、この案件では重要そうです。

静止画から映像までFirefly内で展開

制作にはFireflyの複数機能が使われています。

工程使用した機能
アイデア・方向性検討Firefly Boards
ビジュアル制作Text to Image
静止画から映像へ展開Image to Video
既存ビジュアルの調整Firefly画像編集
現地参加型コンテンツFirefly API
素材共有・レビュー・承認Frame.io

静止画を作ったあと、別の動画生成環境へ持ち込むのではなく、Image to Videoを使ってサイネージ用のモーションへ展開しています。

制作途中で別のビジュアルへ変更したい場合は画像編集機能を使い、素材の差し替えや再構成も行いました。

ひとつの完成画像を生成する用途より、「決まった表現を数十種類の制作物へ展開する」用途が見えてきます。

300万フレーム、20TBまで増えた

最終的な制作データは300万フレーム以上、約20TBになりました。

392点の素材だけを見ると、映像制作として極端な数には見えないかもしれません。

問題は、それを30種類のアスペクト比へ展開し、画面ごとに映像を書き出し、さらに複数画面を同期させることです。

制作量が増えるほど、

  • どれが最新版なのか
  • どのサイズが承認済みなのか
  • 修正がどこまで反映されているのか
  • 誰の確認を待っているのか

といった管理が難しくなります。

うちの会社では「最新ファイル(2) のコピー 3.psd」なんかがごろごろあるので、無理です

Adobeが制作工程の記事でFireflyと同じくらい重要なツールとして挙げているのがFrame.ioです。

大量制作を支えたのはFrame.io

Frame.ioは動画や画像などのレビュー、コメント、バージョン管理、承認を行うための制作管理サービスです。

今回の案件では、Adobe内部のチームと外部パートナー間で素材を共有し、フィードバックを送り、承認状態を管理するために使われました。

しかもタイムズスクエア用の本制作が始まったのはイベントの数週間前です。

その短い期間にクリエイティブ方向を固め、素材を集め、数十画面へ展開し、レビューと修正を通して納品する必要がありました。

公開直前には新しい時事的なコンテンツまで追加しています

生成速度だけ上がっても、確認工程が従来のままなら、そこで制作が止まります。

素材を1時間で100枚作れても、その100枚を誰かが探し、確認し、修正指示を出し、最新版を管理しなければなりません。

AIを大量制作へ使うほど、制作管理側の設計も重要になります。

「AIで速く作った広告」だけではない

Adobeは今回の事例について、AIの価値を単純な効率化だけでは説明していません。

タイムズスクエアという特殊な環境へ合わせて大量の専用素材を作り、静止画とモーションを組み合わせ、短期間で38画面へ展開するためにFireflyを使ったと説明しています。

この違いは制作側から見ると大切です

  • これまで1案しか作れなかったものを10案作れるようにする
  • これまで予算上諦めていた30サイズ展開を可能にする
  • 撮影し直す代わりに、既存素材から別構図を作る

こうした使い方なら、生成AIによって変わるのは作業時間だけではありません。最初から企画できる広告の規模が変わります。

現地では来場者もFireflyで制作

タイムズスクエアには20台のセルフサービス端末も設置されました。

来場者が自分の写真を撮り、ニューヨークや「Just Imagine」の世界観をもとにした16種類のスタイルからひとつを選択すると、1分以内にFireflyが画像を生成します。

完成した画像は、その場を囲む高さ12フィートの「Dream Boards」と呼ばれるLEDスクリーンへ表示されました。

広告を見る人を、その広告の素材を作る人へ変える仕組みです。

ここではFirefly APIが使われ、撮影から生成、表示までを専用システムとして組み込んでいます。

AI生成画像を広告へ使ったことよりも、来場者の入力をリアルタイムで屋外広告へ流し込む体験設計の方が参考になる部分かもしれません。

AdobeはCannesでも同じ制作思想を展開

この制作方法はタイムズスクエアだけのものではありません。

Adobeは「Cannes Lions 2026」でも同じビジュアルシステムを発展させています。

Cannesでは151点の印刷物を81種類のアスペクト比へ展開。映像は24画面向けに173本を制作し、そのうち70本は17種類のサイズで作られました。

Firefly画像・動画は100点以上、レンダリングしたフレームは100万以上。最終データは20万6824ファイル、2248フォルダ、1.19TBに達しています。

ここでもFirefly、Photoshop、Illustrator、Premiere Pro、After Effectsを制作に使い、Frame.ioをレビューと承認の中心に置いています。

Adobe自身の広告だから自社ツールを使っている、という事情はあります。

それでも、ひとつのビジュアルシステムを大量の媒体へ展開するための制作フローとして見ると参考になります。

生成できる量が増えるほど「選ぶ・揃える・管理する」が仕事になる

今回のタイムズスクエア制作では、392点のFirefly素材を作れたことだけに注目すると本質を見落とします。

  • 38面のサイズへ合わせる
  • キャンペーンとして統一する
  • 映像を同期させる
  • 外部クリエイターから届く素材を管理する
  • 修正を反映する
  • 承認済みデータを正しく納品する

生成の前後に大量のデザイン判断があります。

AIによって画像や動画の制作速度が上がれば、この部分の比重は増えます

何を作るか決めること、どれを採用するか判断すること、異なる制作物をひとつのブランドへ揃えること、大量のデータを事故なく完成まで運ぶこと。

AdobeのTimes Square事例は、生成AIを使った派手な広告というより、制作量が増えたときにクリエイティブディレクションと制作管理がどう変わるかを見る事例として面白いものです。

完成画面だけでは見えない20TBの裏側に、これからの大規模制作で重要になる仕事がよく表れています。

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