ZINEの印刷というと、特色や蛍光色、リソグラフなどへ目が向きがちですが、デジタル印刷でもかなり面白い表現ができるようになっています。
富士フイルムビジネスイノベーションが「Innovation Print Awards 2026」の入賞作品を発表しました。日本からは6作品が入賞し、その中にはゴールドとシルバーの特殊トナーを使って6色で印刷したZINEも含まれています。
世界29の国・地域から作品が集まった印刷コンテスト

Innovation Print Awardsは、富士フイルムビジネスイノベーションのデジタル印刷機器を使って制作された印刷物を評価するコンテストです。
2008年から毎年開催され、仕上がりの品質だけでなく、デジタル印刷技術の活用方法、革新性、ビジネスへの有効性、印刷物としての美しさなどが審査されます。
2026年度は世界を対象とした「IPA Global」と、アジア太平洋地域を対象とした「IPA APJ」の2プログラムを開催。
IPA Globalには29の国・地域から442作品が応募し42作品が入賞、IPA APJには13の国・地域から416作品が応募し39作品が選ばれました。
日本のZINEが「特殊色の活用部門」1位

個人クリエイター目線で気になるのが、文唱堂印刷の「Club50(ZINE)」です。
同作品はシルバーとゴールドの特殊トナーを使った6色印刷を採用し、「特殊色の活用部門」で1位を獲得しました。
通常のカラー印刷で基本となるのは、シアン(C)・マゼンタ(M)・イエロー(Y)・ブラック(K)の4色です。
そこへ金や銀など、CMYKだけでは作りにくい色を追加することで、画面上のデザインとは違った質感を紙の上へ加えられます。
ZINEや同人誌を作っている人にとって面白いのは、豪華な商業パッケージではなく、ZINEそのものが特殊色の実践例として評価されたことでしょう。
表紙だけに特殊加工を施すのではなく、冊子全体を「印刷表現の作品」として考える余地があります。
ゴールドやシルバーは「色を増やす」だけではない
金や銀を使えば豪華になる、というだけなら使い方としては単純です。
特殊色が面白いのは、CMYKでは作れない視覚的な階層を増やせることです。
たとえば
- 写真やイラストを通常のカラーで印刷しながら、タイトルだけをシルバーにする
- 背景の模様だけにゴールドを入れる
- 線画の一部だけを金属色へ置き換える
画面では同じ平面だった要素に、紙を傾けたときの反射や質感の違いが加わります。
ZINEなら、作品集のタイトル、写真集のキャプション、漫画の特定シーン、イラストの装飾、ページ番号など、必ずしも広い面積へ使う必要はありません。
特殊色を「装飾」として足すのではなく、情報の役割ごとに印刷色を分けるとデザインとして扱いやすくなります。
日本からはZINE以外にも5作品が入賞


日本勢では文唱堂印刷以外にも、印刷と紙の使い方が面白い作品が選ばれています。
奥村印刷の「食器に変形する脅威の箱 beakx(ビークス)」はサステナビリティ部門1位。食品パッケージを、使用後に紙食器として再利用できる設計です。
スバルグラフィックの「青龍&翠龍」は芸術作品部門1位。ペーパークラフトにデジタル印刷と加飾を組み合わせた大型作品です。


三浦工業の「ほっとハートアートカレンダー」はサステナビリティ部門2位。地域の障がいのあるアーティストによる作品を再生紙へオンデマンド印刷しています。
笹尾印刷所は、越前和紙「銀雪」を使った「漆喰和紙『銀雪』を用いた超消臭シート」で技術革新部門1位。

千野米穀店の「コメとコメ」は、料理ごとに適した米を提案するパッケージシリーズでビジネス効果部門1位を獲得しました。
並べてみると、「きれいに印刷できた作品」を選ぶだけの賞ではないことがわかります。
- 紙を食器にする
- 和紙を機能性製品にする
- 印刷物を立体作品にする
- 特殊色をZINEの表現に組み込む
紙に印刷した後、その紙を何にするのかまでデザインの対象になっています。
世界最優秀賞は50台限定BMWのオーナー向けブック

Globalの最優秀賞には、ドイツのWegner GmbHが制作した「BMW 3.0 CSL」が選ばれました。
2022年に限定50台で復刻販売されたBMW 3.0 CSLの購入者へ贈られたコレクションブックで、車両ごとに識別番号を印刷。高精細な写真表現に加え、ホワイトトナーで印刷した透明PETフィルムも組み合わせています。
ここにもデジタル印刷ならではの考え方があります。
50冊のまったく同じ本を作るのではなく、一冊ずつ内容の一部を変える。
大量生産では扱いにくかった仕様を、小ロットだからこそ商品の価値へ変えています。
個人制作でも応用できそうです
たとえば
- イベント限定50部のZINEに「01/50」から「50/50」まで異なる番号を入れる
- 購入者ごとに一部のページを変える
- 複数種類の表紙を作る
「部数が少ないからできない」ではなく、デジタル印刷では部数が少ないこと自体を仕様にする考え方もできます。
APJ最優秀賞はバティック×特殊トナー

アジア太平洋地域の最優秀賞は、インドネシアのSampurna Printshopによる「Javatik Packaging」です。
ジャワ島中部・スラカルタの伝統的なバティックを現代的なパッケージへ展開した作品で、ゴールド、グリーン、ピンクの特殊トナーを使用しています。
伝統的な模様をそのまま再現するのではなく、現代の印刷技術と組み合わせて新しいプロダクトへ変換している点も興味深いところです。
日本でも和柄、家紋、浮世絵、伝統文様などを題材にした作品は多くあります。
モチーフだけを借りるのではなく、紙や印刷方法まで含めて再設計すると、同じ題材でも作品としての説得力は変わってきます。
ZINEや同人誌の「特殊印刷」はまだ広げられる
個人制作で特殊印刷を考えると、箔押し、ホログラム、蛍光色、白印刷、特色、リソグラフなどが候補になります。
今回の入賞作品を見ると、それだけではありません。
- CMYK+ゴールド+シルバーの多色印刷
- 透明素材+ホワイト
- ペーパークラフト+加飾
- 再生紙へのオンデマンド印刷
- 和紙など特徴のある素材との組み合わせ
- 一冊ごとに情報を変える可変印刷
といった方向まで考えられます。
同人誌の印刷仕様を考えるときも、「どの特殊加工を追加しよう」から始める必要はありません。
作品のどの部分を紙でしか表現できないものにしたいのか。
そこから逆算したほうが、加工そのものが主役にならず、作品と印刷を結びつけやすくなります。
画面で見せるイラストや漫画が当たり前になった今、紙の作品を作る意味は「デジタルデータを紙へ移すこと」だけではなくなっています。
今回ZINEが特殊色部門で1位になったのも、その先にまだ遊べる余地があることを示す例になりそうです。
入賞作品は今後、富士フイルムビジネスイノベーションのショウルーム「グラフィックコミュニケーション東京」をはじめ、各国・地域のイベントなどで展示される予定です。
関連リンク
Innovation Print Awards 2026 入賞作品|富士フイルムビジネスイノベーション
Innovation Print Awards公式ページ
日本からの入賞作品を含む発表記事|プリント&プロモーション