同じ数字を50人のデザイナーに渡したら、どこまで違うものができるのでしょうか。
ロンドンを拠点にタイポグラフィのイベントや講演を続けてきたTypoCircleが、設立50周年を記念したポスターシリーズを発表しました。
参加するのは世界各地のクリエイター50組。Paula Scherさん、Margaret Calvertさん、Alan Kitchingさん、Matt Willeyさんらも名を連ね、それぞれがTypoCircleの50周年を表す「5」を制作しています。
ポスターは各50部限定。10月1日にロンドンで開催される50周年イベントで初披露・先行販売され、翌10月2日からオンライン販売が始まります。
50人に渡されたのは「5を作る」という共通の課題



今回のポスターシリーズには、明確な制約があります。
参加者は自由に50周年記念ポスターを作るのではなく、TypoCircleから与えられた共通のフォーマットに取り組みました。
制作するのは、数字の「5」。
完成した5は、TypoCircleが以前からアイデンティティに使ってきた黒い円と組み合わせられます。
50周年だから「50」を自由にデザインするのではありません。既存の黒い円を「0」として残し、その隣に置く「5」を50人がそれぞれ考える仕組みです。
条件を整理すると、核になる要素は次の3つです。
- 50周年を表す「5」を制作する
- TypoCircleを象徴する黒い円と組み合わせる
- 同じ条件に50組のクリエイターが取り組む
題材そのものは数字一文字。それでも、形を考え始めると選択肢はいくらでもあります。
- 文字として描くのか、図形として組み立てるのか
- 線を使うのか、面を使うのか
- 5だと一目で読めるところまで残すのか、ぎりぎりまで崩すのか
ポスターデザインの練習としても、そのまま使えそうな課題です。
Paula Scherさん、Margaret Calvertさんらが参加



公開されている参加者には、グラフィックデザインやタイポグラフィの分野で長く活動してきたクリエイターが含まれています。
Paula ScherさんはPentagramのパートナーとして、アイデンティティや環境グラフィックなど数多くのプロジェクトを手掛けてきたグラフィックデザイナーです。
Margaret Calvertさんは、イギリスの道路標識システムをJock Kinneirさんとともに設計したことで知られています。
活版印刷を使ったタイポグラフィ作品で知られるAlan Kitchingさん、The New York Times Magazineなどでアートディレクションを手掛けてきたMatt Willeyさんも参加しています。
同じ「5」という題材を、活動領域も世代も異なるデザイナーがどう処理するのか。一枚ずつを見るだけでなく、並べて比較できるところに今回の企画の面白さがあります。
制約があるから、違いを比較しやすい
50人へ「自由にポスターを作ってください」と依頼しても、50種類の作品はできます。
ただ、その場合はテーマも色も情報量も目的も違うので、何が各デザイナーの判断なのかを比較しにくくなります。
今回のように共通の課題を置くと、その差が見えやすくなります。
たとえば観察できるのは、
- 「5」と認識できる形をどこまで残しているか
- 黒い円との位置関係をどう作っているか
- ポジティブスペースとネガティブスペースをどう扱っているか
- 幾何学的に組むか、手仕事の痕跡を残すか
- 一瞬で読ませるか、少し考えさせるか
といった部分です。
ポジティブスペースは文字や図形そのものが占める領域、ネガティブスペースはその周囲や内部に残る空間を指します。 ロゴや文字を設計するときは、描かれている形だけでなく、その間にできる空白も見た目を大きく左右します。
同じ課題だからこそ、「自分だったらどうするか」も考えやすくなります。
50周年のアイデンティティはStudio DRAMAが制作



ポスターシリーズとは別に、TypoCircleは50周年用のビジュアルアイデンティティも用意しました。
担当したのはStudio DRAMAです。
中心にあるのは、TypoCircleがこれまで使ってきた黒い円。50周年だからといって過去のアイデンティティを捨てるのではなく、その黒い円を起点に新しいシステムを組んでいます。
そこへ50人が制作した「5」を合わせれば、黒い円が「0」として機能し、「50」が完成します。
一つの完成した周年ロゴを全媒体へ繰り返し載せる方法とは違い、「5」の部分が入れ替わり続けるわけです。
周年デザインでは、ロゴを一つ作って終わるケースもあります。しかし50人分の5を受け入れられる仕組みにしておけば、ポスターが増えても50周年という共通の見え方は崩れません。
一つのロゴではなく、変化を許容するルールを作ったと考えると理解しやすいでしょう。
1976年からタイポグラフィのイベントを続けてきた
TypoCircleは1976年にThe Type Directors Clubとして始まった、ロンドンの非営利団体です。
現在もボランティアによって運営され、タイポグラフィやグラフィックデザインに関する講演、イベントなどを開催しています。
これまでの登壇者には、グラフィックデザインや広告、タイポグラフィを代表する数多くのクリエイターが含まれています。
そしてTypoCircleには、イベントとは別に蓄積されてきたものがあります。
講演者自身がデザインした告知ポスターです。
講演の内容だけを残すのではなく、その時代のデザイナーが作ったポスターも積み重なってきました。50年間続いたことで、一回ごとの告知物だったポスターがグラフィックデザインのアーカイブとして見られる規模になっています。
今回の50周年企画がポスターなのも、この活動とつながっています。
紙はG.F Smith、印刷はGavin Martin



今回のポスターでは、紙と印刷のパートナーも明らかになっています。
紙を提供するのは、イギリスの紙商G.F Smith。印刷はGavin Martinが担当します。
デジタル上で公開する50周年グラフィックだけで終わらず、印刷物として50部ずつ制作する企画です。
ポスターを見るときは画面上のグラフィックだけでなく、紙との組み合わせも確認したいところです
同じ黒でも、紙の白さや表面によって見え方は変わります。ベタ面が多ければ、印刷方法や紙の質感による差も出ます。
各作品は50部だけ
ポスターは、それぞれ50部限定で制作されます。
10月1日にロンドンのThe Ministryで開催される50周年イベントで先行販売され、オンラインでは10月2日から購入できます。
販売期間は10月30日まで。ただし各作品が50部しかないため、期間中でも作品ごとに完売する可能性があります。
売上はTypoCircleの今後の活動を支えるために使われます。
単純な周年記念グッズではなく、50年間続いてきたデザインコミュニティが、自分たちの次の活動資金をデザインによって作る企画でもあります。
自分でも「5」を作ってみると面白い



完成作品を見る前に、一度自分で作ってみるのも良さそうです。
条件は難しくありません。黒い円を一つ用意して、その左に置く「5」を作る。それだけです。
フォントから数字を選んで終わらせず、図形として考えてみると一気に難しくなります
既存フォントの5を変形してもいい。紙を切ってもいい。一本の線だけで作ってもいい。写真を使って5に見える形を探してもいいでしょう。重要なのは、アイデアを増やす段階です。
最初に思いついた一案を仕上げるのではなく、同じ条件で10案、20案と作ってみる。今回の企画は50人が別々に考えていますが、一人で50案を作る練習にも置き換えられます。
そして10月2日に公開される50作品と比べる。
自分と同じ発想があるかもしれませんし、思いつきもしなかった解釈が出てくるかもしれません。
完成したポスターを見るだけでも楽しめますが、グラフィックデザインの練習課題として使うと、この企画から持ち帰れるものはもっと増えそうです。
「自由に作ってください」より面白いものが出てくることがある
制作するとき、制約は邪魔なものとして扱われがちです。
- 使える色が少ない。
- サイズが決まっている。
- 文字数が多い。
- 予算がない。
- 印刷方法が限られている。
仕事では、そんな条件に悩まされます。
一方で、何でも自由に作れる状態になると、どこから考え始めればいいのかわからなくなることがあります。
今回のTypoCircleは、50人のデザイナーへ同じ「5」を渡しました。自由なのは、その条件の内側です。
ポスターを作るときだけでなく、同人誌の表紙やZINE、自主制作でも応用できます。テーマ、色数、使う図形、文字数、印刷方法など、自分から一つ条件を決めてしまう。
その条件をどう破らずに広げるかを考えると、ただ「格好いいものを作ろう」とするよりアイデアを展開しやすくなることがあります。
50人が同じ数字からどこまで離れた場所へ行けるのか。
10月2日に全作品が販売され始めたら、50枚を続けて見比べたいポスターシリーズです。
関連リンク
TypoCircle公式サイト
TypoCircle 50th Anniversary Celebration|公式イベントページ
Design Week|TypoCircle 50周年ポスターシリーズ紹介