帰り道

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げみが「帰り道」を9枚のイラストに 阪急電鉄の広告は実写と一枚絵で同じ物語をどう描いた?

電車で帰る大学生、飲み会のあとに話す先輩と後輩、遊び疲れて眠った子どもを見守る夫婦。数十秒かけて描ける「帰り道」の物語を、一枚のイラストへ置き換えると何を残せばいいのでしょうか。

阪急電鉄が、新広告プロモーション「阪急で帰ろう。」を2026年9月21日に開始しました。aikoの新曲「青春朱夏」を起用した4本のコンセプトムービーを制作するとともに、その物語をイラストレーター・げみが描き下ろした広告も駅構内などへ掲出します。

さらに、広告になるのは企業側が用意した4つの物語だけではありません。SNSへ寄せられた317件の「帰り道」のエピソードから5件を選び、それぞれをげみがイラスト化しています。

ひとつのキャンペーンの中で、映像から一枚絵へ、文章で投稿された記憶から一枚絵へと、異なる方法で物語をイラストレーションへ変換している制作事例です。

4本の実写映像を、4枚のイラストへ置き換える

「阪急で帰ろう。」の中心にあるのは、電車に乗って家へ帰る時間です。

制作されたコンセプトムービーは「京都河原町駅篇」「神戸三宮駅篇」「宝塚駅篇」「大阪梅田駅篇」の4本。大学生、先輩と後輩、子どもを連れた夫婦、久しぶりに梅田を訪れた夫婦という異なる登場人物を設定し、それぞれの帰り道で生まれる会話や時間を描いています。

げみが描き下ろしたのは、この4つの物語をテーマにしたイラストです

ここで広告の作り方として興味深いのは、単純に「映像のキービジュアルをイラストレーターへ描いてもらった」という構成ではないところです。

映像には時間があります。人物が動き、表情が変わり、会話が進み、車窓の景色も流れていきます。一方、駅で見るイラスト広告には、その時間軸がありません。

数十秒の物語を一枚へ置き換えるなら、どの瞬間を選ぶかが重要になります。

登場人物同士の距離、視線、姿勢、車内の光、窓の外の風景まで含めて、「この前には何があり、このあと何が起きるのだろう」と感じられる場面を作る必要があります。

映像とイラストで同じ題材を扱っているからこそ、完成した両方を見比べると、時間のある表現と一枚で完結する表現の違いが見えてきます。

「映像の一場面を描く」と「物語を一枚にする」は違う

映像作品をイラストへ展開するとき、最も単純なのは印象的な一場面をそのまま描く方法です。

しかし、それでは映像のスクリーンショットをイラストへ置き換えただけになりかねません。

一枚絵には一枚絵なりの情報の組み立て方があります。映像なら前後のカットで説明できる人物関係も、一枚だけなら人物同士の距離や表情、手の位置などから感じ取れるようにする必要があります。場所についても、直前に駅名を映すことはできないため、背景や車両、街の風景などが情報を担います。

反対に、一枚へすべてを説明しようとすると情報過多になります。

広告を目にする人が数秒しか見ないことを考えれば、物語のすべてを説明するより、想像できる余地を残したほうが印象に残る場合もあります。

今回のキャンペーンは特設サイトで4本の物語とイラストをまとめて確認できるため、同じストーリーが媒体によってどう変わったのかを比較できるのも面白いところです。

317件の「帰り道」を募集し、5つを広告イラストに

もうひとつの描き下ろし企画では、制作の出発点そのものが異なります。

阪急電鉄は7月27日から8月14日まで公式Xで「帰り道」の思い出やエピソードを募集しました。集まった投稿は317件。その中から5つを選び、げみがイラストとして描き下ろしています。

こちらには最初から映像がありません。あるのは、誰かが経験して文章として投稿した記憶です。

文章から絵を作る場合、書かれていない情報をどう扱うかという別の問題が出てきます。

  • 人物をどの位置から見るのか
  • 時間帯はどうするのか
  • 何を背景へ入れるのか
  • エピソードのどの瞬間を描くのか

文章にすべて指定されているわけではないため、イラストレーター側で画面を組み立てる余地が生まれます。

小説の装画や挿絵でも起こる「文章をそのまま図解するのではなく、文章から何を拾って一枚の画面へ変えるか」という仕事に近い部分があります。

同じ「描き下ろし」でも、原作になるものが違う

今回の9作品をまとめて見ると、「描き下ろしイラスト」という同じ言葉で括られていても、制作条件は二種類あります。

4作品には先にコンセプトムービーの物語があり、残る5作品には一般客が文章で投稿した記憶があります。

完成形はどちらも広告イラストですが、制作開始時に渡される情報が違います。

前者には人物や場所、ストーリーが映像として具体化された状態で存在します。そこから一枚絵として成立する情報を選び直す作業になります。

後者は文章から場面を立ち上げるため、描かれていない部分を視覚的に補う必要があります。

広告イラストの仕事を「依頼されたテーマで一枚描く」と考えると見落としやすい部分ですが、何を原典として描くかによって、イラストレーターが判断する範囲も変わります。

駅広告だから、作品を見る場所まで物語に入る

げみの描き下ろし4作品は、大阪梅田駅、神戸三宮駅、西宮北口駅で掲出されます。ユーザーのエピソードを描いた5作品も、阪急電車の車内や各駅などへ展開されます。

つまり「帰り道」を描いたイラストを、多くの人が帰り道そのものの途中で見ることになります。

Web広告なら、自宅のソファで見る人もいれば昼休みに見る人もいます。駅広告の場合、掲出場所によって作品を見る状況をある程度想定できます。

今回のテーマと媒体は、その点で強く結びついています。

げみ自身も今回の仕事について、公共交通機関という場所を通じ、多くの人が行き交う日常風景の中へ自身のイラストを置けることへの喜びをコメントしています。

OOHは「Out of Home」の略で、駅、電車、街頭ビジョン、屋外看板など、自宅の外で接触する広告媒体を指します。 Web広告とは異なり、掲出される場所や周囲の環境まで広告体験の一部になり得ます。

今回の場合、「帰り道」という言葉を広告で伝えるだけではなく、その広告を見る場所自体が帰り道になっています。

aikoの「三国駅」は、場所と作品をさらに重ねる

キャンペーンではイラスト広告とは別に、三国駅と大阪梅田駅へaikoにまつわる特別広告も掲出されます。

aikoは大阪府出身で、上京するまで阪急宝塚線を日常的に利用していました。2005年には「三国駅」という楽曲も発表しています。

その三国駅へ、今回の新曲「青春朱夏」とaikoの手書きによる「帰ろう。」のサインを使った広告を掲出。三国駅では9月21日から10月11日、大阪梅田駅では9月28日から10月4日まで展開されます。

有名アーティストの楽曲をCMへ使うだけなら珍しくありません。

今回は、そのアーティスト自身が過去に利用していた鉄道路線、駅名を題材にした過去の楽曲、現在の新曲、駅という広告媒体までがつながっています。

キャンペーン全体で見ると、映像、音楽、イラスト、利用客の記憶、そして広告を見る場所まで、すべてを「帰り道」というテーマへ集めています。

一枚の広告を作る前に「何を描くか」が設計されている

げみのイラストだけを切り取って見ることもできますが、「阪急で帰ろう。」はその前段階を見るとさらに興味深くなります。

企業が伝えたいことを決め、4つの人物関係へ落とし込み、映像として物語を作る。その物語をイラストへ変換し、別ルートでは一般客から記憶を集めて新たな5枚を作る。完成した作品は、物語の舞台でもある駅や電車へ戻されます。

イラストを広告へ使う場合、絵そのものの完成度だけでキャンペーン全体が決まるわけではありません。

何を描いてもらうのか、その絵をどこで見せるのか、前後にどんな物語があるのかまで設計されて初めて、一枚のイラストが広告の中で役割を持ちます。

「阪急で帰ろう。」では、同じイラストレーターによる9枚の描き下ろしを通して、映像から描く場合、文章から描く場合、そして描いたものを物語の舞台へ掲出する場合を一つのキャンペーンの中で見ることができます。

描き下ろし4作品の駅広告は9月21日から10月11日まで、ユーザーのエピソードをもとにした5作品は10月31日まで掲出予定です。特設サイトでは広告グラフィックも公開されています。

関連リンク

阪急電鉄「阪急で帰ろう。」特設サイト
阪急電鉄|「阪急で帰ろう。」公式発表
AdverTimes.|「阪急で帰ろう。」広告展開

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