リソグラフは、理想科学工業が開発した孔版印刷方式のデジタル印刷機です。
一般的なフルカラー印刷とは違い、色ごとに版を作ってインクを重ねるため、版ズレ、かすれ、色ムラ、インク同士の重なりまで一枚ごとに違った表情が生まれます。
「消しごむハンコ」と言えば想像しやすいでしょうか
きれいに均一な印刷を目指すというより、印刷の揺らぎそのものをデザインに取り込めることが大きな特徴です。
写真、イラスト、グラフィック、ポスターとの相性が良く、ZINEの印刷方法としても世界中のクリエイターに使われています。理想科学自身も、ZINEやポストカードなどをリソグラフによる「RISO ART」の代表的な制作物として挙げています。
リソグラフとは?
「リソグラフ(RISOGRAPH)」は、理想科学工業が展開するデジタル印刷機です。
学校のお便りやチラシなどを大量かつ低コストで印刷するための機械として広く使われてきましたが、その独特な印刷表現がデザイナーやイラストレーターにも好まれ、現在ではアート制作にも使われています。
印刷方式は「孔版印刷」です。
孔版印刷(こうはんいんさつ)とは、細かな穴を開けた版からインクを押し出し、紙へ転写する印刷方法です。シルクスクリーンや昔のガリ版も同じ系統に含まれます。
リソグラフでは、まず原稿データをもとに「マスター」と呼ばれる版へ微細な穴を開けます。
マスターとは、リソグラフで印刷するときに使う版です。この穴からインクが通り、紙へ画像や文字が刷られます。
そのマスターを機械内部のドラムへ巻き付け、ドラムを回転させながら紙へインクを転写します。
一度マスターを作れば、同じ版で大量に印刷できる仕組みです。
理想科学によると、1枚の版で約4,000枚まで印刷できます
コピー機とは似ているようでまったく違う
外見や操作感は大型コピー機に近いものの、印刷方法は大きく異なります。
一般的なレーザープリンターでは、粉末状のトナーを熱で紙へ定着させます。
リソグラフは熱でトナーを固定するのではなく、版に開いた穴からインクを紙へ押し出します。使用するのは油分と水分から作られたエマルジョンインクです。
エマルジョンインクとは、水と油のように本来混ざりにくい成分を、均一に分散させたインクです。リソグラフではこのインクを紙へ染み込ませるように印刷します。
そのため、一般的なプリンターで出した印刷物とは、色や紙の手触りが違って見えます。
リソグラフは1色ずつ印刷する

ZINE制作でリソグラフを使うときに最も重要なのが、1色ごとに版を作るという考え方です。
たとえば、
- 赤
- 青
- 黒
の3色を使ったデザインなら、それぞれ別の版を作り、紙を複数回リソグラフへ通して重ね刷りします。
一般的なフルカラー印刷のように、一度の印刷で写真やイラストの色がすべて完成するわけではありません。
理想科学では基本色17色に加え、カスタムカラー50色、さらに指定色に合わせたオーダーカラーにも対応しています。
CMYKとは考え方が違う

一般的なカラー印刷ではCMYKが使われます。
CMYKとは、シアン・マゼンタ・イエロー・ブラックの4色を細かな点として重ね、さまざまな色を再現する方式です。
リソグラフでは、「蛍光ピンク+青」「黄+緑」といったように、使いたいインクそのものを選びます。
こうした特定のインク色を「特色」と呼びます。
特色とは、CMYKの掛け合わせではなく、あらかじめ調合された単独のインク色を使って印刷する方法です。蛍光色や金など、一般的なCMYKでは出しにくい色も使えます。
色を「再現する」というより、インクそのものを選んでデザインする感覚に近くなります。
リソグラフの魅力① 版ズレ

リソグラフらしい表現としてよく挙げられるのが「版ズレ」です。
色ごとに紙を通して印刷するため、印刷位置が完全には重ならず、数ミリ程度ずれることがあります。
普通の印刷ではエラーとして扱われそうな現象ですが、リソグラフではこのズレが作品の味になります。
たとえば人物の線画を黒で刷り、その上へ赤い塗りを重ねる。
赤がわずかに外へはみ出すと、シルクスクリーンや昔の印刷物のような雰囲気が生まれます。
リソグラフ専門のレトロ印刷も、「ズレる・かすれる・混色する」ことを仕上がりの魅力として案内しています。
リソグラフの魅力② かすれ・ムラ

インクを紙へ染み込ませて印刷するため、紙やデザインによってはかすれや濃淡が生まれます。
特にインクを広い面積へ載せる「ベタ」では、波のような色ムラが出ることがあります。
ベタとは、広い範囲を一色で完全に塗りつぶした部分です。背景全体を黒くするようなデザインが代表例です。
一般的な商業印刷なら、均一な色になってほしいところです。
リソグラフでは、このムラも含めて完成品になります。
同じデータを100枚刷っても、一冊ごとにわずかに表情が違う。ZINEのような自主制作物と相性がいい理由のひとつです。
リソグラフの魅力③ 色を重ねると新しい色が生まれる

リソグラフのインクは透過性があるため、色同士を重ねることで別の色に見せられます。
たとえば、
- 黄+青 → 緑
- 蛍光ピンク+青 → 紫系
のように、2色のインクだけでも重ね方によって3色以上の表現を作れます。
レトロ印刷でも「混色」をリソグラフの大きな特徴として挙げています
2色印刷だから表現が2色に限られるわけではありません。どこを重ねるかまで含めて色を設計します。
リソグラフの魅力④ 蛍光色が強い

リソグラフでは、蛍光ピンクや蛍光オレンジなど鮮やかなインクを使えます。
ディスプレイで見たRGB画像の鮮やかさをCMYK印刷で再現しようとすると、色が沈むことがあります。
リソグラフなら、蛍光色をインクそのものとして刷れます。
そのため、
- ポップなイラスト
- 強いタイポグラフィ
- グラフィックZINE
- ポスター
- フライヤー
などとの相性が良くなります。
一般的なカラー印刷より色数を減らしているのに、リソグラフの方が目を引くこともあります。
リソグラフの魅力⑤ 紙の質感を残しやすい

リソグラフではインクを紙へ吸わせて定着させるため、光沢の強い紙より、インクを吸収する紙との相性が良くなります。
レトロ印刷も、つるつるした紙への印刷を不得意とし、リソグラフと相性のいい紙としてさまざまな紙を用意しています。
特に相性がいいのが「非塗工紙」です。
非塗工紙とは、表面へ光沢などを出すコーティングを施していない紙です。上質紙やざらつきのある紙などがあり、紙本来の手触りを残しやすくなります。
ZINEでは印刷内容だけでなく、
「紙を触った感覚」
まで作品の一部にできます。
リソグラフは、この紙とインクの組み合わせを楽しむ印刷とも言えます。
なぜZINEとリソグラフは相性がいい?
リソグラフは、もともとZINE専用に作られた印刷機ではありません。
理想科学が想定してきた大きな用途は、学校教材、チラシ、広報物など、同じ原稿を大量に印刷する仕事です。
それがZINE文化へ入った理由は、技術的な弱点とアート表現の相性にあります。
一般的な印刷で避けたい、
- 版ズレ
- かすれ
- 色ムラ
- インクの重なり
- 紙ごとの発色差
を、ZINEではむしろ作品性として使えます。
大量の商業誌なら「全部同じ品質」であることが重要です。
数十冊だけ作るZINEなら、「一冊ずつ微妙に違う」ことが魅力になり得ます。
理想科学も現在、インクの重なりやカスレ、刷るたびに違う表情をリソグラフのアート表現として紹介しています。
普通のオンデマンド印刷との違い
ZINEでよく使われるオンデマンド印刷と比較してみます。
オンデマンド印刷とは、版を作らずデジタル印刷機から直接印刷する方法です。1冊や10冊など少部数でも注文しやすく、多くのネット印刷会社で使われています。
| 比較 | リソグラフ | 一般的なオンデマンド印刷 |
|---|---|---|
| 色 | インク色を選ぶ | CMYKフルカラーが中心 |
| 版 | 色ごとに作る | 原則不要 |
| 版ズレ | 起こる | 起こりにくい |
| 色ムラ | 出ることがある | 均一になりやすい |
| 蛍光色 | 得意 | 通常は苦手 |
| 写真再現 | 独特な表現 | 元画像に近づけやすい |
| 同じ仕上がり | 一枚ずつ差が出る | 揃いやすい |
| 入稿 | 色ごとの版を作ることが多い | フルカラーデータをそのまま入稿しやすい |
| デザイン性 | 印刷方法自体を表現にできる | データの再現性が高い |
「どちらが上」という話ではありません。
写真の色を忠実に見せたいなら通常のフルカラー印刷。2〜3色のグラフィックや手作り感を出したいならリソグラフ。
作りたいZINEから選びます。
オフセット印刷との違い
商業出版で広く使われるのがオフセット印刷です。
オフセット印刷とは、版につけたインクを一度ゴムローラーへ移し、そこから紙へ転写する印刷方法です。大部数を安定した品質で刷る用途に向いています。
| 比較 | リソグラフ | オフセット |
|---|---|---|
| 主な用途 | ZINE、ポスター、チラシなど | 書籍、雑誌、商業印刷 |
| 色ズレ | 表現として出やすい | 高精度に合わせる |
| 印刷品質 | 揺らぎがある | 安定しやすい |
| 特色 | 得意 | 対応可能 |
| 少〜中部数 | 相性がいい | 条件による |
| 大部数 | 高速 | 得意 |
| 手作り感 | 出やすい | 商業印刷らしく仕上がる |
同じ特色印刷でも、仕上がりの方向は違います。
リソグラフでは「完璧ではないこと」を使ってデザインできます。
リソグラフは安い?
リソグラフは、もともと同じ原稿を大量に高速・低コストで印刷するための機械です。
一度版を作れば同じマスターで大量に印刷できるため、枚数が増えるほど1枚あたりの印刷コストを下げやすくなります。
理想科学では、条件付きながら同一原稿100枚なら1枚あたり1円以下、最高200枚/分での印刷が可能と案内しています。
ただし、これは印刷機そのもののランニングコストの話です。
印刷会社へZINEを発注するときは、
- 製版
- インク色数
- 紙
- 両面印刷
- 製本
- 断裁
- データチェック
などの料金が加わります。
「リソグラフ=ネット印刷より必ず安い」とは考えない方がいいでしょう。
特に色数を増やすと版も増えます
色を増やすほど手間も増える

リソグラフでは1色ごとに版が必要です。
1色なら1版、2色なら2版、3色なら3版……と増えていきます。
専門印刷所では、色数に応じて納期も長くなる場合があります
レトロ印刷では1日に片面2色まで印刷するため、使うインク数によって納期が増えると案内しています。
初めてなら、「黒+蛍光ピンク」や「青+黄」のような2色から試すとリソグラフらしさを感じやすく、データも管理しやすいでしょう。
リソグラフ用データはどう作る?
印刷所へ依頼する場合は、その会社の指定に従います。
一般的な考え方としては、インク色ごとにデータを分けます。
たとえば、
- 蛍光ピンクで刷る部分 → 1版
- 青で刷る部分 → 1版
という形です。
レトロ印刷では、Illustrator入稿の場合、データを1版ごとに分けて保存するよう指定しています。
完成イメージをRGBやCMYKのフルカラー画像として一枚作るだけではなく、「どの部分を、どのインクで刷るか」まで考えてデータを作ります。
この工程自体がリソグラフのデザインになります。
写真もリソグラフで印刷できる?
できます。
ただし一般的な写真プリントとは違う仕上がりになります。
写真を網点などへ変換し、1色または複数色で刷ります。
網点(あみてん)とは、小さな点の大きさや密度を変えて写真の濃淡を表現する方法です。新聞の写真を近くで見ると点が並んで見えるのも同じ考え方です。
- たとえばモノクロ写真を青1色で刷る
- 写真を2つの階調へ分け、赤と青を重ねる
- 4色へ分解し、疑似的なフルカラー表現を作る
といった方法があります。
レトロ印刷でも4色分解による擬似フルカラー用のデータ制作方法を案内しています。
元写真を正確に再現するよりも、写真を印刷表現へ変換するイメージです。
手描きの原稿とも相性がいい
リソグラフはデジタルデータだけでなく、手描きの線や切り貼りした原稿も印刷できます。
レトロ印刷では手描き原稿からの製版にも対応し、鉛筆や筆記具の表現、切り貼りの段差や糊跡まで印刷へ現れる場合があると案内しています。
手書き文字。鉛筆。コラージュ。切り貼り。コピー。
こうしたアナログな素材との相性は良く、ZINEらしいDIY感を残せます。
リソグラフの注意点① インクが擦れることがある
リソグラフのインクは、紙へ染み込ませて定着させます。
そのため、印刷後も強く擦るとインクが手や反対ページへ移ることがあります。
レトロ印刷も、インクは乾いても完全には定着せず、特に蛍光インクや金インクのベタではインク移りに注意するよう案内しています。
ZINEではページ同士が重なるため、濃いベタを大量に使う場合には注意が必要です。
インク移りも含めてリソグラフらしいと考えることはできますが、読者が触ったときに困らない範囲で設計します。
リソグラフの注意点② つるつるした紙は向かない
インクを紙へ吸わせるため、表面がコーティングされた光沢紙などは苦手です。
レトロ印刷では、インクを弾く紙とは相性が良くないと説明しています。
写真ZINEだから光沢紙、とは限りません
リソグラフなら、ざらついた紙へ写真を刷ることで、一般的な写真印刷とは違った表現を作れます。
リソグラフの注意点③ 「きれいに揃わない」が前提
版ズレやムラを完全になくしたい人には向いていません。
特に、
- 小さな文字を複数色で重ねる
- 細い線を別色同士でぴったり合わせる
- 写真を元データどおりに再現する
- 企業ロゴのブランドカラーを厳密に合わせる
といった制作では、別の印刷方式の方が適している場合があります。
リソグラフは、「ズレてもいい」ではなく、「ズレたときも成立するように作る」ところまで含めてデザインする印刷です。
リソグラフに向いているZINE
特に相性がいいのは、
- イラストZINE
- グラフィックZINE
- 写真ZINE
- コラージュZINE
- 漫画ZINE
- 詩・短歌ZINE
- アートZINE
- 実験的な作品集
です。
2〜3色に制限することで、普通にフルカラーで作るより世界観が統一されることもあります。
リソグラフに向かないZINE
反対に、
- 商品写真を正確な色で見せたい
- フルカラー写真を忠実に再現したい
- 企業案件で色管理が厳しい
- 版ズレを許容できない
- 大量の細かな色を使いたい
場合は、オンデマンドやオフセットのフルカラー印刷を検討した方がいいでしょう。
作品に合う印刷方法を使うことが大切です。
リソグラフを使えば自動的にZINEらしくなるわけではありません。
金・白・蛍光色なども使える
リソグラフでは通常の色以外にも、さまざまなインクがあります。
理想科学では基本色17色に加え、多数のカスタムカラーやオーダーカラーを用意しています。
印刷所によっては、
- 蛍光ピンク
- 蛍光オレンジ
- 金
- 白
- パステルカラー
なども選べます。
レトロ印刷では35色以上のインクを扱っています。
ただし、金や白など特殊なインクにはそれぞれ癖があります。
金インクは他の色よりインク落ちしやすく、紙との相性によって発色も変わります。
色見本や試し刷りを確認してから本番へ進むのがおすすめです。
リソグラフで作るなら試し刷りの価値が高い
リソグラフは、画面だけでは完成色を予測しにくい印刷です。
- インクそのものの色
- 紙の色
- インク同士の重なり
- 網点
- かすれ
これらが組み合わさります。
レトロ印刷にも試し刷りサービスが用意されています。
写真や表紙など色を重視するページだけでも、一度現物で確認すると失敗を減らせます。
リソグラフは「印刷する」より「刷って作る」に近い
普通のネット印刷では、
- 完成データを作る
- 入稿する
- 同じ見た目の冊子が届く
という流れを期待します。
リソグラフでは、
- どの色を使うか
- どの版を重ねるか
- どこをわざとずらすか
- どの紙に刷るか
その選択自体が作品になります。
だからZINEと相性がいいのでしょう
ZINEもまた、文章やイラストだけでなく、サイズ、紙、綴じ方、印刷方法まで作者自身が決められる出版物です。
完璧に同じものを大量に複製するのではなく、印刷する工程まで作品へ取り込む。
リソグラフを使う意味は、蛍光色や版ズレの見た目だけではなく、そこにあります。
関連リンク
RISO|リソグラフを知る
RISO|RISO ARTとは
RISO|動画でわかるRISO ART
レトロ印刷
レトロ印刷|紙とインク